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【9】

 油燭を壁際の台へ置くと、イユキアがすばやく顔をよせ、炎を吹き消した。
 窓は鎧戸が落とされ、その隙間からわずかな月夜の明るみがしのび入ってくるだけで、部屋のほとんどは闇に覆われている。
 夜目がきくレイヴァートにも、イユキアの輪郭程度しか見えない。イユキアも同じだろう。レイヴァートは部屋を用心深く横切り、奥の寝台へイユキアを横たえた。
 ゆっくりと、イユキアのまとった衣服へ指をすべらせ、紐をほどき、ボタンを外してゆく。一つ一つ、闇の中でほとんど手探りの慣れない動作に、イユキアが小さく笑ったのがわかった。イユキアの手が下からのびて、レイヴァートの服をあばいてゆく。今日のレイヴァートは質素な剣士の格好をしている。留め紐や飾りボタンのついたローブとは違う、単純なつくりの服だ。すぐに胸元のひもをほどき、シャツをたくしあげて頭から脱がせた。
 レイヴァートの素肌へ指先をはしらせる。イユキアの肌と同じように、レイヴァートの肌もまた熱をおびていた。その熱さに乱れた欲望をおぼえて、イユキアはおぼれそうになる。ただ素肌にふれただけで鼓動がどうしようもなく乱れていた。あさましいほどにわきあがってくる欲望を、だがもう彼は恐れてはいなかった。
 レイヴァートの指が、手間取っていたベルトの結び目を外した。イユキアのローブの足元に手をのばし、服をあばきながら脚を愛撫する。イユキアの声がかすれた。
「レイ‥‥」
 レイヴァートは無言のまま手を早め、イユキアと己の服をすべて取り去る。くらやみに、あらわにされたイユキアの肌がかすかに見えた。熱は互いをさいなむほどに強い。手をのばし、イユキアの欲望へ指をからめた。熱く硬さをおびたそれは手の中にたしかな感触をつたえ、なぞるように五指でこすりあげるとイユキアが切羽つまったような声を上げた。半ば悲鳴のように。
 不意うちにのぼりつめかかった体をもてあまし、イユキアは荒く息をつく。レイヴァートは数秒の猶予をおいてから、ふたたび指にいたずらな力をこめた。はっきりと勃起したものを包みながら強く擦りあげて、先端を弄うようにこねる。イユキアが身をそらせた。
「あっ──」
 この闇では表情がわからず、声ばかりが漆黒に吸いこまれてゆく。ふれる肌の生々しさが、どこか裏腹な幻のようでもある。その熱をのがすまいと、レイヴァートは愛撫をつづけながら左手でイユキアの脚を割り、太腿から膝の裏側まで手のひらを這わせた。イユキアの肌はもう汗ばんで、手のひらにしっとりと熱くなじんだ。割った脚の間に身を入れ、膝から脚の付け根までゆっくりと手のひらで撫で上げると、イユキアが長い息を吐いた。息が途切れるところで、右手の中のものを強く握りこんでやる。
「はぁっ」
 はじけるような悲鳴が上がった。闇のせいか、反応が性急で、あからさまだ。イユキアの茎の根元へ指を回しておさえ、レイヴァートは身をかがめて、熱もあらわな欲望へ舌をからめる。ふくらみの下側をすぼめた舌先でなぞると、イユキアがこらえきれずに切ない声をこぼした。体がふるえる。のぼりつめかかっているくせにまだ声を抑えようとするのがどうにも愛しく、もっと追いつめたくなって、レイヴァートは容赦ない愛撫を重ねた。頬をすぼめるように吸いあげ、舌を先端にねっとりと絡ませる。そそりたつイユキアの楔にたっぷりとした唾液がからんで、濡れた音が闇を乱した。
 どうにも淫らな湿った音は、イユキアの耳にもはっきりと聞こえた。羞恥に身を染めた彼は思わずあらがおうとする。
「やっ‥‥、ああ‥‥」
 腰の奥に熱がたぎっていた。レイヴァートに呑みこまれた楔からこらえようのない快楽の波がわきあがり、全身を大きく呑みこむ。深く含まれて吸いあげられると、白熱したものが体の奥底ではじけたようで、イユキアは喉をのけぞらせた。それなのに根本をいましめた指が、欲望の放出をゆるさない。出口のない灼熱の大波に体も意識もおぼれかかって、泣くようなあえぎが喉の奥からこぼれた。抗いようのない熱がイユキアに何もかもを忘れさせる。
「ん‥‥、レイ‥‥だめっ‥‥」
 膝を立て、のがれようと腰を揺らすが、それが強く誘う媚態になっていることに、イユキアは気付いていない。深く呑んで上あごで先端を擦ると、かすれた嬌声を洩らし、レイヴァートの頭を脚にはさんだ。淫らな飢えが、ほそい声ににじみ出していた。
 レイヴァートは濡れた楔へかるく歯の先をすべらせ、舌腹でなめあげて、うるみをこぼす先端を舌でつつく。たっぷりと時間をかけた濃厚な愛撫がつづき、イユキアがたえかねた声をたてた。ほとんど意味のある言葉になっていない。強い快楽の波がまた下肢をとらえ、体がとめどなくのぼりつめようとする。髪を乱して頭をふった。とじた目のうちに虹のような光がはしった。
「ん‥‥」
 レイヴァートがイユキアの楔へやわらかく舌を這わせてから、強いほどに吸い上げる。イユキアの肢体をするどいふるえが抜けた瞬間、いましめていた指を解いた。爪の背で根元をはじく。ほんの軽く、だが敏感な体の芯にひびくような。
「あああっ‥‥!」
 直接、体の奥底をはじかれたようだった。閃光が身を貫く。下肢にわだかまっていた熱い奔流が一気にのぼりつめ、こらえようもない。一瞬に達していた。ほとんど痛みのような快楽のほとばしりにイユキアは乱れた声を放ち、体をそらせて敷布を強く指にたぐった。強烈な波が体をすぎていったかと思うと、下肢からわきあがる異様な恍惚が全身をなぶりあげるように、ぞろりとさらってゆく。
 たえかねて、そらせた喉からもう一度、切ないあえぎを上げた。
「は‥‥」
 レイヴァートが、飲み干した口元を指で拭いながら身をおこす。闇に熱い息づかいが横たわり、たちのぼる汗と欲望の香りが彼を強く引き寄せた。汗ばむ肌をたしかめるように手を這わせると、イユキアの躰がふるえ、甘い呻きがきこえる。与えられた快楽に溺れて我を失っているのがわかった。
 やわらかな円を描くように、ゆっくりとレイヴァートの手は熱く湿った肌を這い、脚の外側から腰骨をなぞって、荒い息に上下する下腹をすべった。イユキアが乱れた息を洩らす。達した体の内側にはまだどろどろとした熱が脈うち、レイヴァートがふれるたび、肌を中から灼くかのようだった。
 下腹を這った手が体の横をなぞりながら上へのぼってゆく。その手を追うように、レイヴァートは汗ばむ肌へ唇をおとした。唇をはわせ、舌でねぶってやわらかく吸うと、イユキアがあえいでレイヴァートの首すじへ指をからめた。のぼりつめた愉悦の気怠さと、甘くしびれる優しい快感、またのぼりつめようとする熱い波とが体の中に入り乱れて、何が何だかわからなくなってくる。混乱のままレイヴァートの黒髪を指でかき乱すと、レイヴァートが小さく笑う気配がした。ふっと笑う息がかかって、イユキアは肌をふるわせる。
「‥‥レイ‥‥」
 甘い呻きを聞き、ゆっくりと肌を味わいながらレイヴァートは、イユキアの体にともる熱をたしかめている。この国の伝承には「黒館の主は人ではない」と云う。人であろうとも、黒館に主として棲むうちに何か異形のものへと変わってゆくのだと。だが、今抱いているこの体がたしかに人のものであると、快楽に乱れる体をたしかめて、イユキアの内側へ己の存在を刻みつけるように、レイヴァートはイユキアの白い膚を愛した。細い体にはたしかな快楽が息づき、レイヴァートの愛撫の一つごとに乱れてこたえる。それが愛しかった。
「イユキア」
 名をささやいて、大きく息づく胸元へ舌を這わせる。唇で胸の突起をねぶり、硬くなったそれを執拗に舌腹でころがすと、イユキアの体がはじかれたように反応した。レイヴァートの頭に腕を回し、切なげにあえぐ。
「あっ、あああ──」
 乳首を歯でこすると、声が一段はねあがった。レイヴァートは薄く浮く肋骨にかるく歯をすべらせ、もう一方の乳首も口に含んだ。イユキアが腕を解き、レイヴァートの首すじから肩へ、背中まで狂おしく指をはわせる。時おり、体に強い快感がはしるたび、爪をくいこませて呻いた。
 レイヴァートの肌も熱く、汗に湿って荒く息づき、イユキアは背に回した腕にしなやかな勁さを感じる。悦楽におぼれかかる意識の中、その勁さにすがるように腕をからめた。
「レイ──、レイっ‥‥、‥‥ああっ‥‥」
 胸を強く吸われる。乱れた声を放ってレイヴァートの体へ爪を立て、イユキアは恍惚にあえぐ。のけぞる喉を舌でねぶって、レイヴァートは鎖骨のくぼみに舌先を這わせた。華奢な躰に浮いた鎖骨を強くなぞりあげると、イユキアが断続的に短い声を洩らした。
 深い息をついて体を引き上げ、レイヴァートはイユキアの頬をのばした手にたしかめた。表情は闇にまぎれて見えないが、熱く荒い息がきこえる。ゆっくりと体を重ね、唇をあわせると、イユキアは強く応じてレイヴァートを求めた。激しく舌をからませ、裸の脚を互いにからめながら、二人は深いくちづけをくりかえす。互いの楔がふれあって、擦れあい、またするどい快感を生んだ。
 やがて唇をはなし、レイヴァートはイユキアの耳元に舌をすべらせて、囁いた。
「どんな顔をしてる? お前が見たい‥‥」
「な──ふぁっ」
 耳朶をゆるく噛まれて、イユキアがあえいだ。体にかかるレイヴァートの重みが心地よく、かきたてられる快楽にただ翻弄される。どこにふれられても信じられないほどの愉悦をおぼえた。どこまでも溺れそうになる。愛撫に言葉をとぎらせながら、拗ねたような声でどうにか言い返した。
「あなたは‥‥時おり、本当に、んっ‥‥意地が──悪っ‥‥」
「俺もそう思う」
 小さく笑って、レイヴァートはイユキアの目を間近からのぞきこむ。イユキアといると、時おり自分がひどくわがままになって、思わぬほどに強くふるまってしまいそうになる。気持ちに引きずられるまま。共にいられる時間は長くはないから、求めるだけ、求めて。
 指でイユキアの顔にふれると、目尻が涙に濡れていた。闇の中で、イユキアの金の瞳がうっすらと光る。瞳の色をかくしていた水薬が、涙と強い感情で効力を失ってきているのだ。見おろして、レイヴァートはゆっくりとまぶたへ唇をおとした。
 イユキアが甘い息をついて目をとじ、レイヴァートの背へ腕を回す。レイヴァートはふたたび耳元へ囁いた。
「灯りをつけてもいいか」
「‥‥嫌──」
「どうして。お前が見たいのに」
 からかうように、右の耳朶を舌で弄った。イユキアが短くあえいで顔をそむける。あごを指先でとらえてもう一度唇を奪い、レイヴァートは熱い余韻の残る唇でたずねた。
「イユキア?」
「‥‥そんなこと」
 イユキアが、心底困ったようにつぶやいて、もう一度顔を横へ倒した。どうせ闇で表情など見えていないのだが、そんなところがやけに幼くて、思わず笑うと、レイヴァートは首すじの銀髪をかきあげ、あらわになった首に舌をすべらせた。困らせてみたくなる。乱れた声と、体と。それに心と。どれも、めまいがするほどに甘い。愛しさのままに翻弄しながら、欲望が痛むほどつのっていた。
 ゆっくりと首すじを責めると、イユキアが苦しげにあえいだ。レイヴァートはわざとらしく彼を焦らしつづけ、体の熱はますます煽られて、もっと強烈な、奥深い快感を欲しがり出している。
「レイ──」
「どうせ見えないなら‥‥」
 レイヴァートがぐいと背中へ手をさしこみ、強く抱きよせた。ん、と呻くイユキアの背へ指先をはしらせながら、いたずらに囁く。
「もっと乱れてみるか?」
 思わず息をつめたイユキアの腰へ腕を回した。上体が強い力で引き上げられ、イユキアはレイヴァートの首にすがりつく。
 レイヴァートはイユキアを抱き起こしながら寝台へ身を起こし、向かい合うイユキアを膝の上へまたがらせた。膝立ちの形になったが、イユキアは体に力が入らず、レイヴァートの肩に身をあずけながら、すがりついて喘いだ。
「レイ‥‥」
 内腿をそろりと指先がなであげ、イユキアの楔へふれた。イユキアが甘い声を上げ、逃げるように腰を引く。レイヴァートは左手でイユキアの髪をなで、イユキアが少し落ちつくのを待った。指を舌で濡らし、その手を脚の間へのばす。
 硬くはりつめた茎の向こう、脚の奥の窄まりをさぐって、指先で外襞をほぐすようにすると、イユキアが呻いた。少しの間そこを撫でて、指はゆっくりとイユキアの内側へ入りこんでくる。半ばまで入りこんでから、やわらかな動きで内襞をこすった。いったん第1関節まで引いて、もう一度、もっと奥まで沈める。熱い肉襞が指にからみつくようにしめつける中を幾度か動かすと、イユキアが声を洩らして、腰をゆすった。この先にある快感を体が思い出し、追い求めはじめている。レイヴァートは指をふやしてゆっくりと内をほぐした。
 単調な動きに、レイヴァートの首すじに顔を伏せたままイユキアが息をつめた。レイヴァートの肩に投げ出した腕に力がこもり、背にすがる爪がちりりとくいこむ。
「く‥‥はぁっ‥‥」
 よく知っている筈なのに、レイヴァートはイユキアの敏感な場所を責めようとしない。ただやさしく内襞をなぞる。もっと強い動きを欲しがる体が焦れて、我知らず腰が泳ぐ。与えられる、ほんのわずかな刺激にも反応してしまうのをとめられず、イユキアは涙にうるむ目をきつくとじた。すがりついたレイヴァートの体にも汗がにじんで、熱い。
 名を呼んで、すがる。
「レイ‥‥」
「イユキア」
 ひどく優しい声に、体の芯が揺れた。なにもかもどうでもいいほど、欲望だけがふくれあがる。だが、奥をやわらかに愛撫していた指がずるりと抜けていき、イユキアはレイヴァートの首にすがったまま喘いだ。
 しがみつくイユキアの腕をほどく。レイヴァートは、荒い息のイユキアの腰をもちあげさせ、体を倒した自分の上へイユキアを引き上げた。レイヴァートの屹立したものが、彼をまたいでひろげた太腿にふれ、イユキアは荒い快感が体をぞくりと走り抜けるのを感じる。
 乱れた息をついて、恥じるように顔を伏せたイユキアの膝を、レイヴァートの指先がやわらかくなでた。
「イユキア。‥‥自分で」
「な‥‥」
 レイヴァートはイユキアの脚をなでるだけで、それ以上の動きを示さない。
「‥‥っ──」
 苦しげな吐息をこぼして、イユキアは、たじろぎながらレイヴァートのものへ手をのばした。熱くそそりたつそれに、ふれてしまえばあからさまな欲望に引きずられるまま、楔を根元からしごきあげる。レイヴァートがふっと息をつめ、手のひらでイユキアの脚を軽く叩いた。うながしている。
 イユキアが膝立ちになり、腰を浮かせる。レイヴァートのものに指をからめ、自分の奥へと導きながら腰を落とした。慣れないことをしようとするので、ひどく体の動きがぎこちなく、その分だけ体の至るところの刺激をするどく感じとってしまう。レイヴァートの牡を受け入れようとしながらどんな形で挿入されているのか、どうしても想像する──想像しないとうまく動きがとれないのだ。全身が火照って、汗がにじみ出した。
 体の芯に熱い楔が入ってくる、その快感に喉から呻きがこぼれた。貫かれる感覚に全身がわなないて、イユキアは足の爪先をたて、膝でレイヴァートの腰を強くしめる。
 深く呑みこもうとする体をとめようとした時、レイヴァートがゆるい動きで下からつきあげた。
「ああっ‥‥」
 奥へ入って、ふたたび引かれる。大波のような悦楽に膝が崩れて、イユキアの腰が沈み、奥へ一気にレイヴァートのものを呑みこんだ。痛みと、それをはるかに凌駕する熱さが躰の中心を駆けのぼり、イユキアは喉をそらせて長い法悦の呻きを上げていた。後ろへくずれかかる腕をレイヴァートがぐいと引き、イユキアの体は前へくらりと崩れて、腕をついてどうにか身をささえる。
 体の、真芯を熱に貫かれたようだった。己の重みで深くレイヴァートを呑みこんで、体の内側が満たされる。常より強く、体はそれを締めつけて、レイヴァートの存在を最奥にはっきりと感じた。自分の体が屹立に押しひろげられ、奥を他人の熱が貫いていた。
「あ‥‥あ‥‥ああ‥‥っ」
 イユキアは口をあけてあえぐ。全身がしびれたように動けない。
 レイヴァートが、のばした手でイユキアの肩口から腕をなで、こらえるような声で言った。
「イユキア。少し‥‥力を抜け」
「んっ‥‥」
 体がどうしようもなくはりつめて、きつい快感が芯をゆさぶってゆく。呻くだけしかできないイユキアを、レイヴァートがゆっくりとなでていると、やがてイユキアの息がほどけて、体から少し力が抜けた。はぁ、と荒い息をついて、彼はくらむ頭をふる。いつしか、汗みどろの全身で息をしていた。
 満たされたものを感じる。頬が熱くなるほど、その感覚はあからさまだ。だが満たされている筈の体の内に、まだうずめられない空虚があった。
 思わず、すがるように呼んだ。
「レイ‥‥」
「動いてみろ」
 レイヴァートの声にも強い欲望がにじんでいたが、響きはからかうようで、イユキアは全身がかっと熱くなるのを感じる。闇で見えないことはわかっていたが、紅潮した顔をそむけた。
「‥‥本当に‥‥」
「意地が悪い?」
 先取りされる。わかっているのだ、彼は。イユキアがどんな表情をしているのかもわかっているにちがいなかった。この体が、どれほどレイヴァートを求めて飢えているのかも。もっと、ただ翻弄されたかった。黒館の主でも王城の騎士でもないこの一瞬、ただ体と体をつなげて熱に溺れていく。
「どうせ、見えない。‥‥な?」
「あなたは‥‥っ」
 かるく、腰を揺すられた。ほんの少し。それだけで待ちかねたように自分の腰も動いてしまい、イユキアはあられもない声を上げていた。レイヴァートは動きをとめる。もっと欲しくて、どうしようもなくなったイユキアが呻いた。
「レイ‥‥!」
「ん?」
 優しいくせに意地の悪い返事がきこえて、イユキアの体の奥で官能が脈を打った。たえかねた吐息をこぼしながら、イユキアは両腕で体をささえ、ゆっくりと腰を揺らした。大きな波が下肢から全身を呑みこんで、頭の芯がくらくらとしびれる。
 ひとたびはこらえようとしたが、快感を追うことにたちまち夢中になって、体も意識もとどめることができなかった。わずかなためらいは、体を貫く熱いうねりの前に溶けさり、イユキアは腰をくねらせる。内奥をレイヴァートの楔がきつく擦りあげ、それを体がまた締めつけ、背中を汗がしたたった。後ろを男のものに翻弄される異様な感覚と悦楽が、ともに背すじをぞくぞくとのぼってくる。容赦なくかき乱される悦楽を求めて、どんどんと淫らに動き出す体は、まるで自分のものではないようだった。
「あっ‥‥、ああっ‥‥!」
 身をはずませるように、レイヴァートのものを呑みこみ、腰を揺らして、また体を浮かせる。感じる部分を求めて、浅く、深く。奥へとレイヴァートの熱さを求め、全身が踊った。激しくレイヴァートへ腰を押しつけて、あさましいほどに弓腰を揺らし、イユキアは頭を振る。
「くっ‥‥ああっ‥‥レイ‥‥っ」
 とめどなく声がこぼれ、レイヴァートを淫蕩に求めた。腰を振るイユキアの下から、レイヴァートは強い動きをおくりこむ。やっと与えられた動きにイユキアがすすり泣く声を洩らし、さらに求めながら全身を揺らした。内側の性感をつきあげられて、たまらず嬌声が口をつく。体の芯がどろどろにたぎって、なにもかもが闇の坩堝にとけてゆくようだった。ただレイヴァートの存在と、自分を強く貫く熱い官能だけがすべてになる。
 レイヴァートがイユキアの二の腕をつかんだ。やわらかに引かれるまま体を倒したイユキアの首すじへ手を回し、よせた唇を吸う。闇に互いの息が荒い。イユキアは身を伏せたまま、呻いた。腰をレイヴァートへ擦りつける。
 何も考えられない。ただ、欲しい。どれほど淫らでもかまわなかった。
「レイ──」
 レイヴァートがこたえて、イユキアの腰をつかみ、下から強くつきあげた、イユキアが高い声を上げ、全身で快感を呑みこむ。彼の動きに合わせた激しい律動がくりかえし体の芯を貫き、イユキアは一気に高みへ押し上げられた。汗ばんだ肢体をのけぞらせる。闇が揺らぎ、視界が白くくらむ。
 全身を絶頂が呑みこんだ。悦楽の声をはなって身をふるわせ、やがて崩れるように伏したイユキアを、レイヴァートの力強い両腕が抱きしめた。