うす暗い寝室の寝台へ横たえられ、イユキアはまた細い声をあげた。
「レイ、お願いだから──ここじゃなくて‥‥」
「夢のことは忘れろ、イユキア‥‥」
レイヴァートの唇がイユキアの首すじをゆっくりとなぞる。それだけで甘い波が全身にひろがり、下肢が痺れて力が抜けた。イユキアは呻いてもがいたが、レイヴァートの腕は彼を抱いてのがさなかった。
忘れてしまうだろう。レイヴァートの腕の中で、悪夢が生々しく漂うこの部屋で、熱に乱れて自分はきっと悪夢を忘れる。それが怖い。そんなことが許される身ではない。今はただ悪夢にさいなまれるだけの身に、レイヴァートが与えようとしている夢の甘さが恐ろしかった。そこに溺れようとする己が、ひどく浅ましく思える。
レイヴァートの手はイユキアの腰帯をほどき、服の前を乱してしのびこむ。肌をすべる指の感触にイユキアの身がのけぞった。ふれられる場所からひろがる熱い愉悦が、意識を大きくゆすっていく。こらえきれず、泣きだしそうな声で呻いた。
「やぁっ‥‥あっ‥‥」
「忘れていいんだ」
強い声が耳元に囁いた。
「お前は、今、ここにいるんだから。俺の腕の中にいるんだから、今は、忘れてもいいんだ、イユキア‥‥」
「ん‥‥っ」
右手が肌をすべり、脇腹を撫でた。長い衣裳が左右にはだけられ、薄闇にあらわにした白い肌へレイヴァートは熱い唇を這わせる。胸の突起を含むと、イユキアの全身にびくりとした痙攣がはしった。わななく唇から声が洩れる。
「あ‥‥ん‥‥や、嫌、レイ──」
レイヴァートは哀願を無視した。舌で突起をねぶられ、次々と与えられる快感が体の芯をとかしていく。イユキアは口元を手で覆って声を殺そうとしたが、息は熱く乱れた。
執拗に舌で肌を愛撫しながら、レイヴァートは麻の長袖をもどかしく脱ぎ捨てた。素肌が重なる瞬間、互いの口から熱い息がこぼれた。求めあう欲望は隠しようもなく、それでもイユキアはくらむ頭を振る。
「レイ‥‥お願い‥‥」
固くなった乳首へカリ、と歯をあてられた。口をおさえた指の間から切ない声がこぼれる。
「ああっ‥‥んっ、だめ‥‥あっ」
かすめた歯はやわらかな舌にとってかわり、甘くねぶった。時おりかすかに歯の先端がふれ、ゆるやかにこする。刺激の予感だけで焦らしながら、レイヴァートの手がするりと肌をすべった。イユキアの体の線をなぞりながら脚のつけねへおりていく。
一瞬身をすくませたイユキアの抵抗は、からめたレイヴァートの足に封じられていた。レイヴァートの手のひらがイユキアの中心をつつみこみ、五指で楔を擦りあげた。直接的な快感が体の芯をつきぬける。飢えた体を押し流しそうな狂おしい高熱が次々と与えられる。
イユキアはのけぞってあえいだ。
「あ‥‥はっ‥‥嫌ぁ‥‥やめっ‥‥!」
「俺のことだけ考えろ、イユキア」
手をイユキアのそれへ沿わせたまま、ゆるやかな愛撫を与えながら、レイヴァートは耳元へ囁く。左手でイユキアが口に当てている手をつかんで外すと、イユキアは潤んだ金色の眸でレイヴァートを見た。切なげに何かを訴えようとする唇を、レイヴァートは長いくちづけでふさぐ。
深くイユキアを味わい、誘うように引いた舌をイユキアの舌が追った。強く吸って、レイヴァートは唇をはなす。イユキアの口元をひとすじの透明な液がつたっていた。のばした舌でなめとる。
楔を人さし指でそろりとなで上げると、美しい顔が苦しげに歪んだ。
「愛している、お前を」
レイヴァートは、金の瞳を見つめて囁く。イユキアの目から涙がこぼれた。
「私には‥‥そんな‥‥」
「信じろ、イユキア。今だけでいい」
レイヴァートの右手がイユキアの楔を強く握りこみ、ツッと爪先が裏をすべる。強弱をつけて擦りあげる巧みな動きにイユキアの唇から熱い声がとめどなくこぼれた。くちづけでそれを呑み、指先と手のひらでイユキアを追いこみながら、レイヴァートはほそい首すじへ唇を這わせた。耳朶をやわらかく噛みながら、かすれた囁きをおとす。
「昔のことも、夢のことも。ほかのことは、忘れろ‥‥」
「‥‥んっ‥‥あああっ‥‥!」
何も考えられぬほどの愉悦が体を翻弄し、イユキアはうるむ視界にレイヴァートのまなざしを感じた。レイヴァートの、深い緑の瞳はイユキアを間近にのぞきこみ、瞳の奥までもつらぬくように見つめている。そのまなざしの熱さは、イユキアの半身を容赦ない愛撫で追いつめる手よりはるかに淫靡で、イユキアの頬がはげしく赤らんだ。ドクンと心臓が耳の奥に脈を打つ。快感がはじけかかった。
指先につかんだ敷布を握りしめ、イユキアは首をのけぞらせる。下肢からつきあがる強烈な愉悦が次々と体の芯を貫いた。こらえようとしたのも一瞬、ささいな抵抗は強弱をつけられた鮮烈な刺激に押し流され、イユキアは甘い叫びを上げて快楽の飛沫をときはなっていた。
吐息はどこまでも熱い。
執拗なほどに与えられた愛撫に、全身は灼けるようだった。レイヴァートの指と舌が肌にふれるたび、快感の波がぞろりと体の奥をとおりぬける。手のひらが下腹から腿へ這うゆっくりとした動きに、思わず腰が泳いだ。ひとたびのぼりつめた体は、男の愛撫の一つ一つに狂おしいほど感じて、淫らに踊った。
「ん‥‥あぁ‥‥、ふっ、レイ‥‥」
首から肩口、なだらかな曲線へレイヴァートが歯をたてる。肩の骨にそって歯先をすべらせた。弱いところを責められて、すがるように男の名を呻きながら、イユキアは華奢な腕をレイヴァートの首へ回した。強く肌を吸われる。痛みとも快感ともつかないものに体の芯をはじかれたようで、イユキアは乱れた声をあげていた。
もうどれほどこうして翻弄されているかわからない。時間の感覚など溶け去り、打ち寄せてはひく悦楽の波に溺れ、イユキアはただレイヴァートの存在を、自分を抱きしめ時に意地悪く弄ぶ手を、己に重なる肌と汗の匂いを、くりかえし肌を愛する唇だけを感じていた。
熱は体の深奥に渦を巻き、かきたてられる快楽が出口もなく肌の内を灼く。深く、もっと深く。求めながら焦れる体は、与えられる快感をむさぼって、どんどん貪欲になってゆく。
深く、もっと深く‥‥
「‥‥レイ‥‥んっ‥‥」
下肢のつけ根をそろりと爪先がすべったが、快楽にはりつめたイユキアの熱い楔にはふれず、指は脚の外側を擦って脇腹を胸元へなぞりあげる。感じやすくなった肌からしびれの波がひろがって、イユキアは強くあえいだ。レイヴァートの名を途切れ途切れに呼ぶ。濡れた目が闇をさまよってレイヴァートを求めた。
レイヴァートのうなじにかかったイユキアの手に、力がこもる。引かれるまま胸元から頭をおこして顔を寄せ、レイヴァートはイユキアを見おろした。白い、抜けるような肌は上気してところどころ強い紅潮を散らし、汗とレイヴァートの唾液に濡れ、唇は快楽の吐息にかすかに開いている。細い銀の髪が乱れて頬へからみつき、揺れる睫毛の下からうるんだ金の目ですがるようにレイヴァートを見つめるイユキアの貌は、とてつもなく淫らで、美しかった。
「レ‥‥、あっ!」
懇願するように名を呼びかかったが、乳首を爪で擦ると喉をそらせた。どこまでも彼を溺れさせたいと、レイヴァートはきしむほどの欲望をおぼえる。イユキアを乱れさせて、すがらせて。彼のすべてを自分の腕の中へおさめたい。一瞬だけでも。罪に似た背徳の恋だとしても、たぎる熱の中へすべてを失ってしまいたい。
「イユキア‥‥」
名を呼んで、唇で睫毛にふれるとイユキアはふるえる目をとじた。目じりから透明な涙のすじがこぼれて、紅潮した頬をつたう。まぶたの上を舌先でねぶると、イユキアがつまったような声を上げた。
「‥‥レイ‥‥もう‥‥、もっ‥‥」
「もう?」
耳元へ囁く。息のかかる感触に、そして言葉の含むからかうような響きに、びくりとイユキアの身がはねた。固くなった乳首を指の腹で強くこねあげると、唇が激しく乱れ、切れ切れにあえぐ口のはじから唾液がこぼれる。
「ふっ‥‥ん‥‥ああっ、レイ‥‥、レイっ‥‥」
レイヴァートの首すじへ回されたイユキアの指がうなじから後頭部をまさぐった。しなやかな脚の膝を折ってレイヴァートの脚へからめ、汗にまみれた肌を擦り上げる。誘うようにイユキアの腰がくねった。
「レイ‥‥っ」
切ない声がレイヴァートの理性へからみつく。このままでは溺れるのは俺の方だな、と白泥にとけかかる頭のすみで思いながら、レイヴァートはイユキアの背に腕を回し、熱く息づく肢体を裏返した。イユキアはなされるがままに敷布の襞に全身を投げ出し、甘い呻きを洩らす。そのうなじから白い背中の丸みを指先が平坦に撫でおろした。
「っ‥‥!」
力なく放り出された両手が敷布をきつくつかみ、イユキアは声を殺した。素っ気なくすべっていくだけの指先は、愛撫とも言えぬ乾いた感触を与えたが、とろけた体にはそれすらもとめどない快楽をかきたてる。
まっすぐに背骨をつたう指は、谷間をすべって内腿へ入りこんだ。ぐいと左の腿をすくうように足をひらかせながら、レイヴァートはもう片手で抱くように、イユキアの腰を持ち上げる。膝をたて、腰を高く上げさせられ、イユキアはかきあつめた布の襞へ顔をうずめた。
腿の内側をそろりと爪がなであげる。耳をゆるく噛まれた。
「もっとだ、イユキア。‥‥もっと、足を開いて」
「‥‥んっ‥‥」
こらえきれない羞恥と快楽に背がわなないた。だが抵抗などとうに投げ出していた。今はただ、レイヴァートをもっと強く、体の深いところに感じたくて仕方がない。泣くような声を洩らして、イユキアは腰を掲げたまま、膝を開いた。途端、ぐいと足首をつかまれて強くひろげられる。
「うあっ!?」
体の芯がじんと熱く乱れ、イユキアは切ない叫びを上げていた。掲げられた谷間をレイヴァートの濡れた舌が這う。汗ばんだ肌をむさぼる舌と唇は、奥をさぐり、谷間の奥にひそむイユキアの秘奥をねぶった。熱い舌が肉襞を這い、襞の内をあばくように執拗な舌先がなめあげる。イユキアの腰が逃げるように、あるいは誘うようにくねった。すぼめた舌先をちろりと奥にさしいれると、背がひくりと揺らぐ。
唾液を舌にからめて淫猥に濡れた音をたてながら、レイヴァートの手が足の間にのび、はりつめたイユキアの楔にふれた。優しげな愛撫をくわえる。イユキアの呻きがレイヴァートの手の律動に重なった。
「あ‥‥ああっ‥‥あ‥‥っ‥‥」
熱い茎にからめた指に力をこめれば、イユキアは恍惚に酔ったような声をあげ、後ろの襞を深く責めれば息をつめて腰を揺らす。快感に耐えかねたイユキアの左手が敷布を乱し、布の擦れる音がきしむほど強く握りしめた。右拳の背は口元へあて、盛り上がった骨の形を強く噛む。はしる痛みが快楽をのがすためのものなのか、煽るためのものなのか、イユキア自身にもとうにわからなくなっている。だがそうでもしないと、世界を失って堕ちていきそうだった。
欲望を追いつめることなく、レイヴァートの愛撫がイユキアから離れた。腰を高く上げたまま頬を布にうずめ、イユキアは荒い息をこぼす。甘い溜息が耳にとどいて、レイヴァートの口元に笑みがはしった。そうして狂おしく乱れるイユキアが愛しいと思う。もっと乱して、知らない彼を見たい。イユキアを深く感じて、イユキアの深みへ己を刻みつけたい。灼けるような欲望がつのった。
イユキアの谷間をなでおろす。奥へ落とした指先で肉襞をやわらかくなでると、焦れたイユキアが腰を左右へくねらせた。
「‥‥レイっ‥‥」
レイヴァートの指が秘奥の内へ沈んでいく。一瞬拒むように固かった入り口は、だが、すぐに熱く指先を受け入れた。裡襞が強く指をしめつける。熱い奥へゆっくりとうずめた。
「イユキア」
名を呼んで、肩にくちづける。イユキアは布の波へ顔を沈め、頭を左右へふった。
「んっ‥‥あああっ‥‥」
自分へ入ってくる指の、ひとつひとつの動きを体の芯で感じる。かすかな動きが奥に生まれるたび、わきおこる官能がイユキアの身をゆすった。
指はいったん奥へ沈み、ゆっくりと引いていく。幾度も、単調なほどにその動きをくりかえした。そのたびごとに生みだされる甘美なうねりに意識をさらわれそうで、イユキアは布を噛んで声をこらえた。とてつもなく乱れてしまいそうだった。
もっとたぎる熱が欲しいと思う。あさましいほどにレイヴァートが欲しい。だが己の欲望が怖い。この嵐が自分をどこへさらっていくのかが恐ろしい。思わず呻いた。
「嫌っ‥‥」
二本目の指が内側を擦り上げる。脈打つ襞は指を呑みこみ、じれったいほどの愛撫に蕩けるような熱さでからみついた。レイヴァートは指をゆっくりと抜き入れしながら、唇をイユキアの背中へはしらせる。愛しげに囁いた。
「イユキア‥‥」
「だ‥‥め、んっ、ああ‥‥っ‥‥はあっ!」
ふいに指先がぐるりと回され、強く中を擦った。角度を変えながら内襞を責める。深みの一点をなぶった瞬間、はじかれたようにイユキアの身がはねた。
「あああっ、ああっ‥‥ん‥‥っ、あっ、‥‥」
指は荒々しいほどの動きをしめしてイユキアの後ろを翻弄する。肉襞を突き崩すように責め、時にやわらかに、時に強引に奥をえぐった。いつのまにか指の数は増え、かき乱される快楽にイユキアのあえぎはとまらない。
敷布を乱して左手が狂おしくはねる。布を握ってはまた逃れるように指をのばし、きつく布襞をつかんだ。色を失うほどに強く、指先が痛むほどに布へ指をくいこませる。だがその痛みすら、快楽の火へ油をそそぐだけだった。体をささえることができず、法悦の呻きを洩らして膝がくずれかかった。イユキアの腰へ手を回して体を支え、レイヴァートはゆるやかに指を抜く。
イユキアの口から名残りおしげなあえぎが洩れた。汗に濡れた体を布の海へ崩し、火照った息をあえがせながら、彼は身の内に残る熱さに惑乱される。しどけなく投げ出された下肢はうずいたまま、まるで力が入らない。体の奥底にたぎる情欲が肌をさいなんだ。まだのぼりつめて、まだ欲しい。与えられれば与えられるだけ、もっと深くもっと強く感じたくなる。
「んっ‥‥」
呻いて、イユキアは涙をこぼした。レイヴァートが背に腕を回し、イユキアを抱き寄せる。汗ばんだ肌のふれあいに陶酔した吐息を洩らして、イユキアは男へ体をあずけた。レイヴァートの胸は荒く上下し、寄せた耳にきこえる鼓動はひどく早い。レイヴァートもまたこの熱さを感じているのかと思うと、体の芯がとろけるほどに乱れた。
熱い息をつめたイユキアの耳元で、レイヴァートが囁く。
「イユキア。‥‥愛している」
「‥‥‥」
イユキアは唇を噛んだ。
応えることはできない。この言葉に応えたことはない。それは約束のようで。してしまえば、失うことを恐れるしかない約束のようで。
言葉にはできない。一度言ってしまえば、きっと自分は溺れる。心に、かなわない望みをかける。
黙ったままのイユキアを、レイヴァートは強く抱きしめた。熱くしめった体を、乱れた布に横たえる。イユキアの頭の横に両肘をつき、顔をのぞきこむと、頬を濡らす涙のすじを親指でぬぐいながら彼は小さくわらった。
「お前は、自分がどんな目をしているか知っているか?」
「‥‥え‥‥?」
「俺が、愛していると言うたびに。その金の目は、お前の言葉よりも沈黙よりも、正直だ」
「な‥‥」
顔をそむけるイユキアの耳元から首すじへ、彼の涙に濡れたレイヴァートの指がつうっとすべった。イユキアが体をふるわせ、恍惚の吐息を洩らす。レイヴァートは囁いた。
「イユキア‥‥」
「‥‥っ」
指はそのまま鎖骨を這い、肩口の丸みを爪でなぶり、胸の突起をかすめて脇腹を撫でる。甘い声をたてて、イユキアの体がしなった。視界が涙にくらむ。頭をゆるく振った。
「は‥‥っ、レイ‥‥っ」
腰がぐいと手で抱かれ、引き上げられる。レイヴァートの熱を脚の間に感じて、イユキアはもどかしげに膝を立て、足をひらいた。体の芯に熟れた情欲がたぎって、もうたまらなかった。深く、もっと深くへレイヴァートを感じたい。膝の裏へレイヴァートの手がさしこまれ、下肢をさらに大きくひらかれた。中心をさらけだされる羞恥が身をはしりぬけたが、それは甘い期待も秘めていた。
熱い怒張が後ろに押しあてられる。息をつめた瞬間、レイヴァートの楔が入ってきた。愉悦に酔った体にレイヴァートを呑みこみながら、イユキアは背をのけぞらせる。体の芯をゆっくりと貫き入ってくる圧倒的な熱に、下肢が蕩けそうだった。かすかにともなう痛みはかえって快楽を高めただけで、法悦に思わず腰をゆすりあげる。
だが、中途で熱は引いた。レイヴァートが侵入をやめ、軽く腰をもどす。
「んっ‥‥」
抗議するような甘い声に小さな笑みをおとして、レイヴァートは一気に最奥まで貫いた。イユキアが高い声を放つ。
「ああああっ!」
イユキアの内へと身を沈めたレイヴァートも、からみつく中の熱さにめまいをおぼえた。恍惚が腰からぞくぞくと這い上がって、意識が呑まれそうになる。快楽を求めて腰を動かしはじめた。もっとゆっくり高めていきたいが、もう自制がきかなかった。イユキアの深く、もっと深くへと腰をうちつける。たぎる欲望へ身をゆだねた。
イユキアの体を白熱したうねりが貫いた。官能が脈をうちながら体の芯を駆け抜けていく。幾度も幾度も、レイヴァートの楔が肉の奥底を貫くたびにイユキアの全身が波打った。満たされる快感に、望んでいた灼熱に、口をあけて陶然とあえぐ。
「あっ‥‥ああっ、んっ、レ‥‥イ‥‥っ!」
「イユキア‥‥」
レイヴァートが、耳元へ熱い囁きをおとした。深い声の愛しげな響きが、イユキアの体をぞくりと抜けた。痺れるような快感に、体が小さく痙攣した。レイヴァートが深奥を貫いたまま動きをとめる。イユキアが強く感じるたびに肉襞が脈打ち、レイヴァートへからみついた。
「ん‥‥っ、ああ‥‥」
頭をふって、イユキアは腰を揺らす。奥へ呑みこんだレイヴァートの熱さは、力強く彼を満たしていた。体が快美な脈を打つたびに、己を貫く楔をしめあげ、さらに熱く感じてしまう。逃れようと身をそらせたが、腰はなけなしの理性を裏切り、誘うように淫らにくねった。その動きがさらに強い官能を生む。
レイヴァートは動いていないのに、どんどん感じてのぼりつめる己の体が信じられず、イユキアは悲鳴のような声をあげた。気が狂いそうな思いで頭をふる。天井のない快楽に、どうにかなってしまいそうだった。
「レイっ‥‥!」
「怖がるな」
イユキアへ身を重ね、レイヴァートは細い体を抱いた。
「‥‥な‥‥んっ、や‥‥っ、いやぁあっ‥‥!」
「俺をもっと感じろ、イユキア」
唇を重ねてあえぎを吸いとった。陶然としたくちづけの間からこぼれおちるぬめりが、イユキアのあごをつたっていく。
レイヴァートはうるむ金の瞳をのぞきこんだ。イユキアの、快楽にくらんだまなざしをとらえる。イユキアを満たすものよりもなお熱い声で、囁いた。
「愛している──」
「ん‥‥っ‥‥あああ‥‥っ、あっ!」
奥へみなぎるレイヴァートの楔を自分の快楽の脈でしめあげ、呑みこんで、イユキアの唇から乱れた叫びがほとばしった。レイヴァートがゆるやかに腰を回すと、信じられないほどに鮮烈な波がイユキアの全身を呑みこんだ。足先が強く布をかきみだし、しなる指が布地を引き攣らせる。こらえるように敷布をつかむイユキアの右手を、レイヴァートの手がさぐりあて、ほどき、強く互いの指をからめた。
イユキアの脈動へ息をあわせ、レイヴァートはゆっくりと動きはじめる。イユキアはもうさからわなかった。身をさらう灼熱の波に意識をゆだね、白い肢体は快楽のままに乱れる。求めることしか頭になかった。レイヴァートへの強い欲望に押し流され、体も心も淫らにとけていく。
求める強さのままに与えられた。レイヴァートが激しくつきあげるたび、深みをえぐる熱さに世界が白くくらむ。嵐のような快美の奔流にすべてが砕け散った。
声に、やがてすすり泣くような快楽のあえぎがまじり、互いの名を呼ぶ声がひびいた。暗がりに法悦の呻きが長く尾を引き、ふっつりと途切れると、深い沈黙が覆うように落ちた。