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【乱反射:2】

「‥‥それで?」
「──それでって、何が?」
「だから、さ‥‥」
「何が、だから」
「昼間の」
「いつの昼間?」
「あきれたな。もう忘れたのか?」
「かもしれない‥‥煙草、消せよ──」


 怠惰な言葉遊び。
 あれこれと、ささいな用を片づけて、レアメタルインゴットを隠し場所から金庫へ動かし、当座の寝ぐらへ戻った時には夜はすっかり更けていた。大きな二人用のカウチに体を休め、ふたりは、ほとんど意味のない会話をくりかえす。カウチの周囲には脱ぎ捨てられた靴と上着がちらばっている。サーペントはくすくす笑ってヘッドレストへ頭を沈みこませた。
 エースは手をのばし、サーペントの顔にかかる髪をかきあげる。かえす手で頬を撫で、サーペントの唇をなぞると、舌がちろりとのぞいて親指をなめた。
 その感触をたのしみながら、小指の先で、耳の下からあごのラインを撫でる。サーペントがゆっくり息を吐いた。
 もう片手でくわえていた煙草を取り、エースはサイドテーブルの灰皿へ吸い殻を捨てた。サーペントのシャツを引き上げる。あらわになった腹部から左手をしのばせながら、彼は低くたずねた。
「どうしてモデルなんかしたんだ?」
「‥‥昔話? こんな時に?」
 また、サーペントがからかうように笑って、エースは青い目を細めた。
「朝まで言葉遊びをする気なら、まあ、つきあってもいいけどな」
「だって」
 サーペントは頭をエースのそばへ寄せ、間近で顔を見上げた。昼から今まで一度も、エースは絵のことを口にしなかったが。今も別に、機嫌を損ねているわけではないらしく、彫りのするどい顔は至っておだやかな表情をしていた。
 ものの、サーペントは、エースが何を考えているのか、その青い目の下にあるものを、たいがい読みとれない。他人の考えや感情を読むのは得意技だったが、もう二年も共にいる相棒は、その意味で一番手ごわかった。
 隠しているふうでも、感情を抑えているようでもない。ただ、わからない。今となっては不快ではないが、ふしぎだった。こんなに近くにいるのに、よくわからない。手をのばし、金の髪へ指をさしこんだ。くせのあるダークブロンドを指にからめるようにかき乱し、力をこめて引きよせる。エースは逆らわずに頭を倒した。
 互いの唇が重なる。せくようなサーペントの唇を、エースが巧みにはぐらかしながら、煙草の残り香の漂うキスを交わした。甘いキスの最中に、下唇を軽く噛まれ、サーペントは息をこぼしながらエースへ身を寄せた。エースの腰へ手を回して、しならせた体を押し付ける。やわらかくしのびこんだ舌が、上あごの奥から歯裏までをゆっくりなぞった。舌をからめようとすると、それはすばやく逃げる。
 全身の血がゆっくりと熱してゆく。情動が、どこかわからない身の奥底から強くわきあがった。体と心とどちらが反応しているのか、サーペントにはよくわからない。どちらでもよかった。今は。
 唇をはなし、かすかに上気した息で、サーペントは囁く。
「こんな時に昔の男の話なんか、聞きたかないだろ」
 エースがふっと笑った。濡れた唇を指の背で拭う。
「絵の話は聞きたいね‥‥」
「大した話じゃ──」
「なら話せよ」
 今度はエースから唇をかぶせた。乱暴に唇を割り、歯を割って、舌が荒く口腔を蹂躙する。欲望をそのままぶつけられるような激しさに、サーペントの背がゆるく反った。ぞくぞくする快感が強く呼びさまされ、舌を吸われた瞬間、喉の奥で呻いていた。キスの最中に目をあげると、間近にのぞきこんでくるエースの紺碧の目の奥に揺れる光が見えた。
 はぁ、と息をついて離れ、サーペントはムッとしたようにエースをにらむ。
「欲情してるくせに」
「してなかったらキスなんかするかよ」
 エースは笑う。その口に、サーペントが軽く噛みついた。本当なら血を吸ってやりたいところだが、小さな呻きを聞いたくらいでひとまず満足する。すねたように言った。
「昔話なんか聞きながら、よく人を抱ける──」
 エースが手をのばしてレバーを外すと、カウチの背中が倒れた。横倒しに倒れこんだサーペントの体へ腕を回し、自分の上へ引き上げて、Vネックのシャツを下から脱がせる。サーペントは何か口の中でぶつぶつ言いながら、素直に腕を上げて上半身の服を脱ぎ捨てた。無駄なく締まったなめらかな躰をエースの指がすべる。愛しげに愛撫して、背中へ回した腕でぐいと引き寄せた。体の上へ倒れたサーペントをきつく抱きしめ、背中をゆっくり撫でおろすと、耳元で荒い息がきこえた。
 エースは囁く。
「それで?」
「‥‥って‥‥」
「バイトに応募でもしたのか?“時給応相談、モデル求む”って──」
 からかう声が首すじを這い、耳の下を舌でなぞリあげられてサーペントは呻いた。ほんのささいな愛撫にもふしぎなほど躰が反応する。何のトリップも必要ない。指や舌が肌にふれるごとに、血がざわめいて際限なく熱せられるようだった。
 肌に当たるエースの服が腹立たしくて、身を重ねたまま、引きちぎるようにボタンを外していく。実際、いくつか引きちぎったが、気にもならなかった。前を外すと、肩から服を引きずりおろし、袖を抜かせる。エースは黒のアンダーウェアを防護服代わりにまとっていたが、それは自分で脱いだ。切られでもすると困る。
 素肌をあわせ、擦るように身を重ねて、サーペントはエースの首すじへ舌をはわせる。ぴたりとあわさった肌が互いに汗ばむのがわかった。頭をうごかすと、こぼれおちたサーペントの髪がエースの肌を這い、ぞくりと快感をおぼえたエースは目をとじてサーペントの背をなでた。
「エース。‥‥あの絵、どう思う‥‥?」
「ん? ‥‥店の絵はどうと言うほどのものじゃないが‥‥あの──お前の絵は、良かったな。確かにまだ一つ、未完成な風だったが。あれは‥‥」
 言葉が途切れて、サーペントは顔を上げた。エースの横へ腕をつき、体を持ち上げる。エースの息も荒い。少し酔ったような眸でサーペントを見つめ、笑みを浮かべた。
「あれは、人を殺そうとしてる時の、お前の顔だ。それ以上でも以下でもない。‥‥いったい、どうやって、あんな顔で絵のモデルになった?」
「‥‥‥」
 サーペントが小さく笑う。エースの指先が肩から腕のラインをすべりおちた。
「そう‥‥会ったのは、俺が人を殺した時だ。ちょっとしたシロモノのガードの仕事で──んっ」
 胸の中央を指で撫でおろされ、乳首を小さくはじかれて甘い呻きをこぼした。エースの肩にサーペントの爪がくいこむ。
「話を聞く気があるのかてめェは‥‥ッ」
「つづけろよ」
「やめるぞ!」
「どっちを?」
 からかうように、甘い響きで囁いて、エースはサーペントの腰をつかんで引き上げた。自分の上へ座らせて、サーペントのベルトを外し、内側から熱い欲望の楔を引き出す。エースへ身を伏せたサーペントが、乱れ落ちるクリームブロンドの下で呻いた。
 サーペントのそれは、エースの手の中で硬くはりつめて、からめるような愛撫に熱く反応した。全体を握るようにしてやわらかな指技をくわえると、サーペントは長い息を洩らしてエースの首すじへ顔を伏せた。背を丸め、肩を預けて、たちのぼる快楽を味わう。深みからもたらされる愉悦が次々と体の奥底を洗った。
「つづけろよ、サーペント」
 エースが愛撫の手をとめて、うながす。サーペントは顔を伏せたまま何か下品に毒づいたが、エースが聞き流していると、乱れた息の下からつづけた。
「荷物を襲われて。何人か返り討ちにした時に、たまたまあいつが見てた‥‥んっ」
 ふたたび与えられた刺激に反応して、身を揺らす。エースの肌へ乱暴な指先をすべらせながら、時おり爪をたてた。
「で‥‥モデルをやってくれって言われて‥‥仕事終わって、ヒマだったし‥‥」
 殺し屋にモデルをたのむ画家と、「ヒマだから」引き受ける殺し屋と、どっちがマトモな神経だかわからない。
 エースはサーペントの背へ回した左手を長いストロークですべらせた。
「‥‥あいつ、俺に殺されたがってた。してる時だって、人の首しめたりとかしてさぁ──次は、殺す気でくるつもりなのがわかってね‥‥」
 ふふ、と肩を揺らして笑った。エースから表情は見えない。上がった息の間から、早口に言った。
「本気でこられたら、殺すしかないし。そこまでつきあいきれないよ、ねェ?」
「お前はまったく可愛い嘘つきだよ」
 溜息のように呟いて、エースはサーペントの熱い茎を強くこすりあげる。膨らみの下を一瞬指で締め、裏へ回した爪先で口の下をやわらかにはじくと、サーペントが長い呻きを洩らした。エースに押しつけた頭をふる。淫らな刺激に追いつめられた声がこぼれた。
「ああっ、‥‥んっ──」
 腰がゆるくはねた。たえかねたようにエースに押しつける。服の上から股間につたわる刺激に、エースが息を早めて、サーペントを愛撫する指先に熱がこもった。
「‥‥だっ‥‥んぁっ、エース‥‥っ」
 エースの肩をつかむ爪がくいこむ。痛みよりも愉悦をおぼえて、エースはサーペントの楔を手に包んだ。囁く。
「ほら」
 茎をやわらかに、だが容赦なくしごきあげると、サーペントの体がビクリと大きくふるえた。もう一度、リズムをつけた刺激に強いあえぎを上げ、達する体をするどい波がはしりぬける。鋭い呻きとともに、エースの手の中に熱い吐精がほとばしった。


 少しの間、エースに頭を押しあてたまま、荒い息をついていたが、サーペントはゆっくりと顔を上げた。乱れた髪が汗で顔から肩へはりついている。長い金髪の下から、半分夢を見ているような目でエースを見おろした。口元には微笑が漂っている。
「‥‥その嘘つきに惚れたのは──」
「俺だよ」
 笑って、エースは左手でサーペントの髪をかきあげた。返す手で、引き寄せる。
 長いキスは、互いの唾液をからめる音がするまで続き、二人は体をぴたりと重ねて互いの肌の熱を味わった。エースはサーペントの背に腕を回したまま、乱れた声で囁く。
「あの画家も、お前に惚れたのか。ったく、タチが悪い」
「あいつは“死神”って言ってたねぇ、俺のこと‥‥」
「何のために絵なんて描かせた」
「ん‥‥」
 背中にふれるエースの指の感触がしびれるように体にひろがって、サーペントは呻いた。重ねた肌ごしにエースの鼓動を感じる。乱れた脈と、汗ばんだ躰と。快楽に酔うのが心地よく、ひたすらに溺れていきたい。何かエースが言ったが、夢中で頭をふった。
「後で。エース、後で話す‥‥」
「もっと上手な嘘を?」
 それはやけにはっきり聞こえた。本気なのかからかっているのか、わからない。
 くくっと喉の奥で笑いながら、サーペントはエースの胸元へ唇をすべらせる。大きく息づく胸に乱れた髪を這わせ、乳首を含むとエースが鋭く息をつめて、やはり笑ったようだった。二人はしばらく笑いながら互いの躰へ躰をからませる。
 サーペントは身をおこして体を下げ、引き抜いたエースのベルトをそのあたりへ投げると、ダークブルーのストレートパンツを引き下げた。両足から引き抜いて放り出すと、カウチの上で、エースの脚の間に膝をつく。片足を折って外側へ倒し、股間の欲望を口へ含んだ。
 とうに硬くなっていたそれはサーペントの口の中で熱く、舌をからめて吸いあげると、エースの腹筋が大きく動くのが見えた。感じている。そう思うと、サーペントの背すじをぞくりと甘いものが這い上がって、何も考えられずに楔に舌と歯を這わせた。ねっとりと唾液をからめて音をたて、歯を当ててゆっくりと頭を引く。
 エースが低く呻いて、サーペントの髪の間に指をさしこんだ。髪を乱す。エースのものをくわえたサーペントの喉からも呻きが洩れ、上あごをかぶせるようにゆるゆると呑みこんだ。
 あらかた呑んだところで、エースがサーペントの後頭部に手をあて、ぐいと押しこんだ。サーペントがくぐもった声を洩らして、深く喉の奥へ呑みこむ。頭をゆるく振った。乱れたクリームブロンドの間から行為に溺れるサーペントの貌が透けて、エースはどうしようもないほどの昂揚と快感を覚える。髪をつかんでゆるやかに引き上げた。
 先端に、口腔の奥から上あごを擦られ、サーペントは躰をはしりぬける快感に身をゆだねながら、抜けていくものへ舌をからめる。また笑いの発作がおこってきて、クスクス笑いながら先端を歯裏でしごいて強く吸った。エースが呻く。
「‥‥お前が知りたいのはさ」
 口からエースの楔を外して、サーペントは脚の間からエースを見つめた。上気した肌は汗でうっすらと光り、淡いラベンダーの瞳はいつもより青みが強い。オリエント・ブルー。あからさまな欲望に酔った眸をして、挑戦的に笑った。
「俺がどうしてあの画家と寝たかってこと?」
「どうしてかはわかってる。絵を描かせるためだろ‥‥正確には、絵を〈完成させないため〉か?」
「うっわー、つまんない男」
 呻くように言って、サーペントは自分の服を蹴とばすように脱ぎ捨てる。エースの膝の上へまたがった。求める欲望はほとんど痛むほどに身の内にたぎっている。耐えがたいほどの飢えに押し流されそうな自分を、彼はギリギリのところで愉しんでいた。溺れてもいい。それこそ、際限なく。だがこの一瞬、あやうい綱引きをしているような刹那もまったく、素晴しい。昂揚する。どうしようもなく傷つけてしまいそうなほどに。
 その方法を知らないのが、今の最大の幸福かもしれない──エースは、彼と同じように欲望のエッジを愉しんでいたが、挑発的な言葉にたじろいだ気配もなかった。笑っただけだ。
「仕事か、気まぐれか。どっちだ?」
「両方‥‥かなぁ」
「画家を〈壊す〉のが? 一体誰にたのまれた」
「‥‥‥」
 うすい笑みをおとして、サーペントは屹立するエースのものへ指をからめる。それはサーペントの唾液でぬめりながら、先端から蜜をこぼしている。怠惰にふくらみをなぞりながら、ゆるく首を振った。
「したことある、エース?」
「何を」
「人を‥‥壊すことさ」
「どうだろうな。考えたことはないな」
「──お前みたいなのが、一番タチが悪いんだよ‥‥」
 呟いて、体を倒し、唇を寄せてキスする。そう、タチが悪い。何も通用しない。飢えたような欲望がつのって、サーペントは長いキスをむさぼりながら、腰をあげた。エースの楔に指を添えながら膝を立て、腰を落としてゆく。自分の奥へ熱いものを導いた。
 ゆっくりと、わずかな痛みの感覚をともないながら、じれったいほどに奥へじわじわと呑みこんでいく。キスを重ねたままの唇から法悦の呻きがこぼれる。
 エースの胸に頭を伏せ、サーペントは腰をゆすった。熱い、エースの一部が自分の内側へみなぎっていくのを感じる。深く、強く、満たされる感覚がなにもかもを押し流しそうだった。貫かれる、それとも呑みこんでいく、その一瞬を愉しみながら、乱れそうになる。乱してほしいとも思う。奥へ呑みこんで、背をふるわせた。
「エース‥‥っ」
 呼ぶ声に応じるように、下から強く突き上げられた。喉をそらせ、サーペントはするどい声を上げる。あらわな白い首すじを、エースが痛むほどに噛んだ。
 数度、深く動いて、エースは長い息をついた。サーペントは愉悦に酔いながら、また上機嫌に笑っている。欲しくて仕方ないし、ギリギリを愉しみたくて仕方ない。その細い腰へ腕を回して抱き、エースはぐいと身をおこした。体を深く貫くものの角度が変わって、サーペントが呻く。しなやかな躰を倒しながら、腰を抱え、膝裏をすくって強くのしかかった。
「ふぁ──、あ‥‥っ」
 サーペントが乱れた声をほとばしらせる。足元までゆるやかにのびた長いカウチだが、背もたれを倒しても多少の傾斜はある。頭を下側に横たえられ、上から組みしかれて、エースの体重を傾斜の分だけ躰に強く受けとめていた。外も、内も。膝裏をすくわれた足は高くかかえられて、エースを呑みこむ体の奥すらあからさまにさらけだされる。深く、彼の楔にからみつく、淫蕩な躰。
 エースがゆっくりと腰を引く。抜かれていく、大波のような感覚に腰の裏をさらわれて、全身がふるえ、サーペントは髪を乱して頭をふった。エッジなど一瞬でとびこえる。強く押しこまれた瞬間、頭の芯がはじけたようで世界が白くくらんだ。カウチを覆う布が擦れてきしむ。高い声を上げながら腰をくねらせる。もっと欲しい。もっと、鮮烈に、エースだけに満たされたかった。
 ──この純粋な欲望を恋と言っていいのかどうか、彼は、知らない。この飢えに名付ける名があるのかさえ。
 ただ、奪い尽くしてほしかった。同時に奪い尽くしたい。灼けつくような、この刹那。腰を振り、エースを求めて下肢を彼の腰へ巻きつけ、狂おしく名を呼び、強い背中へ爪をすべらせ、首すじへ乱れた指をからめた。深く動きを受けとめるたび、汗ばんだ互いの膚がこすれあって、たまらない官能の波が全身をはしりぬける。呻いて、名を呼んだ。
 エースが動きをとめ、荒い息で耳元へ囁いた。
「あの画家、今のお前の顔を見たことがないんだろうな‥‥」
「んっ‥‥」
 愉悦に溺れて濡れた眸は、エースのまなざしを受けとめたようだったが、焦点は甘い。そのくせ、激しい炎のような情欲がたぎっていた。くずれかかる繊細な脆さと、一瞬ではじけとびそうな獰猛さが同時に透けて見える。淫らで、激しい。
 エースの手が、サーペントの楔を包みこんで、やわらかく愛撫すると、サーペントが上気した躰をふるわせて強く呻いた。腰の動きをエースの腰へからみつかせながら、彼はすがるように呼ぶ。
「エース‥‥っ!」
「最高」
 かすれた声で呟いて、エースは短く強い動きを熱い腰へ送りこむ。性感をダイレクトに突かれてサーペントの躰がしなった。全身でエースの動きを呑みこみ、汗ばんだ膚を求めて溺れていく。声にならない呻きを洩らし、するどく背をそらせて、強烈な快感に一気にのぼりつめていた。
「‥‥‥‥っ‥‥‥‥」
 頭を振って、乱れた髪をゆらし、やがて、切なげな息をついた。達した躰を言いようのない虚脱感の波が洗っていく。それは快感の熱さとはまたちがう、深くおだやかな官能で、彼を満たした。
 サーペントは、しばらく荒い胸を上下させていたが、濡れた眸でぼんやりと、すぐ上の恋人の顔を見上げる。エースも熱い息をついていたが、視線がからむと微笑して、唇にキスをおとした。
 その背にサーペントが爪をたてる。
「イってないくせに──」
「見とれてた」
 エースの声はまだひどくかすれていた。サーペントが笑って、膝を大きく立て、エースの腰へ腕を回す。うながされて、エースはサーペントの背中を抱くと、奥を貫いたまま体をおこした。サーペントが小さく呻きながら膝立ちになり、エースの肩を押してカウチに仰向けに押しつける。
 膝を大きく開いて、深くエースへ腰をおとし、両手を腰骨の上へのせた。上気した貌にいたずらっぽい笑みをうかべて、エースの目を見つめる。ゆっくりと腰を使いはじめて、ぐいと力をこめた。内襞で強く締められ、熱い中で擦られて、エースが荒い息をこぼす。その青い目に走る愉悦の色をたしかめながら、サーペントは次第に強く腰を揺らしていく。腰から太腿の横へ指をはわせ、腰骨をリズムをあわせて強くはじくと、エースの背がゆるく反った。
 熱い息をつめて、エースは目をとじたが、サーペントが囁いた。
「駄目だよ。目をあけて、エース‥‥俺を見て」
 その青い目がどんなふうに愉悦に溶けるのか、見たい。
 まぶたを上げたエースの瞳をのぞきこみながら、サーペントは微笑する。その顔を見つめ、開いた膝頭をつかんで、エースは強く突き上げながら、熱い奥へ欲望をときはなっていた。