内側を探っていく指はいつものように執拗で、イーツェンの微細な反応をすべて引きずり出そうとする。狭隘な奥を押し開かれていく違和感と粘膜を擦られる感覚の熱さに、イーツェンはかすれた呻きを高く上げた。
 頭の芯が白く灼け、ただ肉体の感覚だけを求めて思考が痺れる。世界はとりとめなくイーツェンの周囲で崩れ、何もかもが遠い。もっと深く強烈な悦楽を求め、寝椅子についた手足に力をこめて尻を上げながら、イーツェンは椅子に頭をつけて体を支えようとした。力が入らない。
「ん‥‥ああっ‥‥」
 呻いて足を開こうとするが、すでにのびきった鎖がもう一度鳴っただけだった。歩くのに支障ない程度に短く保たれた鎖をいっぱいに張って足をひろげ、イーツェンは腰を揺する。油に濡れたオゼルクの指が彼の奥をゆっくりとえぐり、深みをなぶりながら、イーツェンを絶頂近くまで追いつめた。
 濡れた舌が首すじを這い、浮いた汗を舐めとり、首のつけ根のくぼみを吸った。イーツェンは上半身を寝椅子に崩して呻いた。体の奥にたぎる熱の放出を求めて自分のものに手をのばし、しごきあげる。その手首をオゼルクが後ろからつかんで、背中へねじりあげた。
「やっ──」
 呻くイーツェンの髪を誰かがつかみ、顔を上げさせる。ぼんやりと見上げたイーツェンは、目の前にローギスが立っているのを見たが、不思議にも思わなかった。感覚のどこかで、彼が近づいてきたことを察知していたのかもしれない。
 ローギスは宴の服から室内用のゆったりとしたガウンに着替えていた。絹で裏打ちされた毛織りのガウンの前をひらき、猛々しい牡をイーツェンの口元に近づける。イーツェンは口を開き、硬い昂ぶりに唾液をからめながら舌を使いはじめた。求めることしか頭にない。ただ体の奥を誰かの熱で満たされたかった。
 ローギスが腰をすすめ、イーツェンの口へ深く突き入れる。太い張りに顎の奥を擦られ、イーツェンはどうにか喉をゆるめてそれを受け入れた。唇のはじを唾液がつたった。
 オゼルクの指は兄の動きに合わせるように、関節の背でイーツェンの奥を擦り上げ、そうされるたびにイーツェンの背がしなった。オゼルクの、かすかな笑いを帯びた声が遠くで聞こえた。
「可愛いだろう」
 ローギスは何も言わなかった。あるいは、硬い牡を吸うことに気がいっていたイーツェンの耳には聞こえなかっただけかもしれない。数回、前後の動きをくりかえすと、ローギスはイーツェンの口から自分のものを抜いた。唾液で濡れ光り、隆と勃ちあがった牡の先端を、イーツェンはのばした舌でなめ、あふれてくる蜜をなめとった。
 奥から指が抜けていく。うつろな感覚に荒い息をつくイーツェンの腕をローギスがつかみ、イーツェンはどうにか膝をつかって寝椅子に起き上がった。ローギスはイーツェンの太腿を下からかかえあげ、イーツェンの背中を椅子に押し付ける。男の腕は容赦ない力でイーツェンの脚を開こうとしたが、鎖が張って、腿の革枷が肌に痛むほどくいこんだだけだった。そのままイーツェンの脚を膝が胸につくほど曲げさせ、体を二つ折りにした腰をかかえこむと、ローギスは歪めたイーツェンの体の奥へ、猛る牡を容赦なく突き込んだ。
 イーツェンの視界が白くなる。オゼルクの指で慣らされていても、太い楔に引き裂かれるような苦痛と圧迫感が内臓を収縮させ、全身にぴんと緊張がはりつめて息がとまった。一瞬おいて、めまいのような強烈な快感が体の奥からわきあがった。声が出せない。ローギスのものはこんなふうに強引に受け入れるには大きく、体の内側がすべて彼の存在で満たされこねあげられるような衝撃に、イーツェンは息のできない喉をのけぞらせた。
 引いて、また突き上げられる。何の容赦も、情もなく。一突きごとにただ支配されていく。だがそれは確かにイーツェンの求めたものだった。己の存在が消え失せ、体の熱と快感の中にすべてが溶ける。押し曲げられた足の間で鎖が鳴り、イーツェンは身をよじりながら、ただ圧倒的なうねりに押し流された。
 体全体がローギスの熱を感じ、突き上げられてかすれた悲鳴を上げながら、奥を犯すものを離すまいというように締めつける。満たされるなら何でもよかった。たとえこれが快感ではなくとも、イーツェンにはこの瞬間、自分自身を忘れさせるすべてが必要だった。
 もっと深く、もっと強く──何もかもを投げ出して、不自由な足を開こうとして鎖にはばまれながら、イーツェンは犯される感覚に溺れる。絶頂に何もかもを見失って、荒く息づく全身を強くしならせた。
 潤んだ目のすみを何かがよぎる。ローギスの突き上げに体ごと揺さぶられながら、イーツェンは逆しまの視界にオゼルクを見つめた。オゼルクは暖炉脇の壁によりかかり、口元へ酒を運びながらイーツェンと兄の交合を冷たい眸で見ていた。
 その表情が、驚いたように締まる。イーツェンはどうして自分が笑っているのかよくわからなかったが、一度こみあげてきた笑いは唇から消せなかった。寝椅子の布をつかんで体を支えたイーツェンの体をローギスが深く貫き、荒い息を立てて動きをとめた。奥に男のものが注ぎ込まれる感覚に長い呻きを上げながら、イーツェンは深い熱をむさぼり、自分の手でしごいて己を解き放った。ゆっくりと世界が砕けて、沈んでいく。
 耳の中で鼓動と血の流れが鳴っていた。
 ローギスがイーツェンの奥から己を抜いた。肩から落ちかかったガウンを汗のにじんだ体にまとい直しながら、彼はちらりとオゼルクを見た。
「一年ぶりか?」
「久しぶりというのもおもしろいでしょう」
 オゼルクは口元に酒杯をあてたまま、薄い微笑を兄へ向けていた。言葉は丁寧だが、口調はぞんざいで、どこか挑むような不遜さがあった。
「悪くない」
 イーツェンは熱の残る体を仰向けに横たえたまま、ぼんやりと天井を見上げて二人の兄弟の会話を聞いていた。炎の色の届かない天井から、何かが自分を見つめているような気がする。深い沼のような薄暗がりをじっと見上げ、天井画がそこに描かれているのだと悟ったが、視界がかすんで、描かれたものの形を見定めることはできなかった。
 まなざしはうつろにさまよって、怪物のような不思議な影を見つけ出す。
 兄弟はまだ何か低い声で言葉を交わしていたが、人の名の多い会話はイーツェンの耳を通り抜けるだけで、意味のある形を持たない。イーツェンは、天井にうずくまる影を一匹二匹と無為に数えた。
 ふと気付くと、オゼルクが奇妙な表情で彼をのぞきこんでいた。
「何を笑っている」
「‥‥何も‥‥」
 そもそも笑っていたつもりが、イーツェンにはなかった。
 オゼルクが手をのばしてイーツェンの体を起こす。布を手渡され、イーツェンは機械的な仕種で自分の体についた精液と汗を拭った。革枷が足に擦れた部分がひりつき、汗を含んだ枷がひどく重くくいこむ気がした。
 ローギスの姿はもうどこにもない。奥の寝室に戻ったのか、出ていったのか、イーツェンには記憶がなかったが、あまり考えずにもつれた髪を指で梳いた。
 体に、血と肉の代わりに粘泥でもつまっているような気がする。男に蹂躙されたばかりの奥に疼く痛みと熱が凝っていたが、ほかの体の部分はにぶく冷えきって、指先に血の通っている感覚がほとんどない。時おり身がふるえた。
 イーツェンはオゼルクの手渡す服を一つずつ身にまとった。ひどくぎこちない手つきをオゼルクは黙ったまま見下ろしていた。イーツェンがどうにか身をとりつくろって髪を結ぶと、彼はイーツェンを立ち上がらせ、肩を抱くようにして部屋からつれ出す。その腕は奇妙に優しかった。


 夜の廊下は、石の柱に架けられた小さな油燭の光がところどころ輪を落とすほかに灯りはなく、オゼルクは手燭で足元を照らして慣れた足取りで歩いた。
 一歩ごとに身の奥にぬるい熱が揺れ、イーツェンは段々と気分が悪くなったが、オゼルクに悟られないよう必死で足取りを合わせた。鎖が重い。
 棟の大扉は閉ざされているが、横にある詰所の小さな扉を抜ける。詰所には三人の番兵がいたが、オゼルクに無言の礼をしただけで、二人に声をかける者は誰もいない。宴の後で飲んでいたとでも思われているのだろうが、どうしても服の下の自分の体にべったりと残る男の気配を意識してしまい、イーツェンは身をちぢめるようにして彼らのまなざしを避けた。
 塔に帰りたいと思ったが、それを口には出せなかった。シゼはどこにいるのだろう。まだ手当てを受けているのだろうか。それとも塔に戻っているだろうか。どちらにせよ終課の鐘はとうに鳴って、すでに塔は閉ざされている時間で、イーツェンが戻ることはできなかった。
 オゼルクは自室の前で立ち止まると、鍵の束を内懐から取り出して選り分け、光る銅色の鍵を錠にさしこんで回した。中へ入るようイーツェンに顎をしゃくる。イーツェンはオゼルクから手燭を受け取りながら扉を開き、部屋へ足を踏み入れた。
 客用の待ち合い部屋を抜け、奥の私室へとオゼルクはイーツェンを導く。歩くイーツェンの手の炎が揺らぐたび、大きな影が暗い部屋の壁をはねるように這い回った。夜の底から何かが這い出してきたようだと、イーツェンは思う。そういうものが自分の体の芯に棲みついているような気がした。
 奥の部屋に入ると、イーツェンは石の壁龕に置かれた油燭に炎を移し、手燭を吹き消した。それを脇机に置く。オゼルクは上着を取って書き物机の前の椅子の背に投げ、イーツェンの肩を後ろからつかんだ。男の息が荒く耳元にひびいて、イーツェンはぞくりと肌をふるわせる。
 ソファの背もたれにうつ伏せの体を押し付けられ、イーツェンは痛む顔を斜めによじって床を見つめた。長い裾をまくり上げてイーツェンの下肢をさらけだすと、オゼルクは兄が残したものでまだ潤んだそこへ、己の牡を押し当てた。先端がぬるりともぐりこみ、イーツェンが喉にくぐもった声をつめた。
 鎖のせいでイーツェンは足がうまく開けず、背後に立つオゼルクがイーツェンをまたぐ形になる。少し挿入したところでイーツェンの腰をつかんで高さを調整し、オゼルクは指でつかんだ尻肉を左右へ押し開きながら、さらに腰を沈めた。
 そんなふうに後ろから、互いに服も取らずに犯されていると、まるで自分が物にでもなったような気がしてくる。足の鎖だけではなく、全身を束縛されているように息苦しく、強く背もたれに押し付けられた胸に必死に息を吸いこみながら、イーツェンは逃れるように腰をゆすった。オゼルクがぐいとイーツェンの腰を引き戻し、同時に突き上げた。
「ひぅ‥‥っ」
 熱いものが体の芯から脳天まで抜け、喉に息がつまった。腹の底から圧迫感が押し上がり、イーツェンは吐き気と痛みに身をよじりながら、さらなる快感を求めて腰を後ろへ突き出した。硬い牡の感触をくわえこんだ奥が生々しくひくつく。
 オゼルクがもう一度イーツェンを突き上げ、イーツェンは長椅子にしがみついて目をとじた。ローギスの荒々しい蹂躙の残した痛みが一突きごとに繰り返されるが、頭の芯が快感に蕩け、痛みすらも体を灼く愉悦の一部だった。角度をつけて深みを突かれる。全身がはね、唾液のつたう口を開けて声もなくあえいだ。
 オゼルクはイーツェンの求めるものをよく知っていた。焦らしながら、もう一度ゆっくりと貫き、奥を満たしたままイーツェンの腰をつかんで回すようにゆする。一方的に追い上げるだけでなく、イーツェンから快楽の反応を引きずり出して彼を砕こうとする、その呼吸は巧みだった。イーツェンが呻いて腰をさらに持ち上げようとしたが、オゼルクは少し引いてその動きをはぐらかす。イーツェンの体に兄が残した快楽の記憶を消すように、執拗にイーツェンの奥を自分の熱で満たし、翻弄した。
「や‥‥オゼルク‥‥、お、ねが‥‥」
 哀願を口走りながら腰をゆすっていたが、いきなり前をつかまれて、イーツェンは悲鳴をあげた。硬く張りつめたイーツェンの牡をしごきながら、オゼルクが奥まで突き上げる。声が途切れるとゆっくりと引き、力強く突いた。段々と動きを早める。
「ああっ! あ、あ──っ」
 長椅子に押し付けた口から高い声がこぼれ、イーツェンはオゼルクの動きに合わせて腰をくねらせた。額を汗がつたって目に入り、瞼をとじてオゼルクの牡と手の愛撫の熱だけをむさぼった。自分の中の何かが突き崩されていく。どろどろにもつれた体ごと、このまま快感の中へ溶けてしまいたかった。
 オゼルクの手の中へ吐精を放ち、イーツェンはぐったりとつっぷす。その体をオゼルクが数度突き上げて動きをとめた。ぬるりとした熱が注ぎ込まれ、充溢していたものが抜かれていくうつろな感覚。身じろいだが、力の抜けた体を起こすことはできなかった。
「水を飲むか」
 髪をなでられる。小さくうなずくと、オゼルクの足音が離れた。
 身を返して、イーツェンは崩れるように長椅子に横たわる。息をととのえようとしたが喉が引きつれてうまくいかず、切れ切れに呻いた。
 戻ったオゼルクがイーツェンの頭を腕に抱き、水の入ったグラスを唇に当てた。唾液に粘つく口で数口飲み下し、イーツェンは首を振った。喉はカラカラだがそれ以上飲み込めない。オゼルクはグラスを脇机にのせ、イーツェンを抱き起こして座らせると、宴用のローブをゆっくりと脱がせはじめた。
 こんなふうに優しい手もしているのだと、イーツェンは服を取るオゼルクの顔をぼんやり見つめた。今となってはそれを求めているわけではない。優しくなどされたくなかったが、その手を払うこともできなかった。
 イーツェンが肌着だけになると、オゼルクは肘をつかんで彼を立たせた。
「おいで」
 低い声で囁く。奥の寝室へつながる扉の鍵を開き、オゼルクはイーツェンを自分の寝室へ入れた。珍しいことだった。単にイーツェンを放り出すわけにもいかずに眠る場所を提供するだけのことだろうとは思いながら、そこにほかの意味があるのだろうかとイーツェンは思う。だが何かを考えるには、疲れすぎていた。
 寝室は細長く、奥を寝台が占めていた。左手の壁に腰高の棚板が取り付けられ、その下に衣装箱が置かれている。オゼルクは寝台へイーツェンを押しやると、油燭を棚へのせた。広い寝台には毛足のあるやわらかな敷布が引かれ、イーツェンは心地よい感触の上へ崩れるように座り込んだ。
 オゼルク自身と同じように、彼の部屋は飾り気がない。寝室も質素で、棚の上にも不要な物は何一つなかったが、そこに置かれた丸い影が、ふとイーツェンの目を引いた。重石‥‥下が平らな、それは文鎮のように見えた。
 イーツェンはまばたきする。何かを思い出しそうだった。だが何だかわからない。
 何故、文鎮がここにあるのだろう? 書き物机もなく、紙もペンもインク瓶も見当たらない、この場所に。光の輪のすぐ外側にうずくまったそれは、部屋の中で奇妙な違和感を放っていた。
 オゼルクは衣装箱の上から籠を引っぱり出し、脱いだ自分の服を置いていた。優雅な、どこか獰猛な動き。そちらに目を向けた時、オゼルクの動きで炎が揺れ、文鎮にはねた光がぎらりと深い赤にかがやいた。
「‥‥‥」
 イーツェンはその色を茫然と見つめた。記憶が一気に押し寄せてくる。それはレンギが使っていた文鎮だった。レンギの作業部屋で、イーツェンはそれを手にして眺めたことがある。暗い色の琥珀と石がまざりあった文鎮は丁寧に磨かれ、手にずっしりと重かった。
 それがどうして、ここに?
 オゼルクは服を脱ぎ捨てて上半身裸になり、籠を足で押しやって寝台に体を向けた。イーツェンはオゼルクが金髪を指で軽く梳く様子を見ていたが、低い声でたずねた。
「レンギにも、こんなことをしたんですか?」
「何を」
 オゼルクのまなざしも声もかわいていた。油燭を寝台の柱に取り付けられた鉤に掛け、彼はイーツェンに向こうへ寄るよう手で示す。イーツェンが空けた場所へ座ると、足元にたたまれた毛布をひろげて引っぱり上げた。
「兄上と」
 毛布の下に横たわりながら、イーツェンはぼそっと呟いた。オゼルクも並んで身を横たえ、頬杖をついてイーツェンの顔を見下ろす。イーツェンは物憂げにつづけた。
「あの人でしょう。前に、私を抱いたのは」
(一年ぶりか?)
 ローギスはそう言った。たしかに一年ほど前、目隠しをされた状態で誰ともわからぬ相手に抱かれたことがある。思えばそれも、ローギスがこの城に立ち寄っていた間のことだった。
 今夜の舞いが、イーツェンの脳裏によみがえる。兄弟が、舞いの相手を物でも投げるように交換した──その様が。自分がそんなふうに投げ渡されたのがわかっていた。そして多分、彼らはそんなことに慣れているのだということも。
 オゼルクは青い目をほそめた。
「兄は昔から、私の持っているものを常に要求した。ほしいからではない。私を、自分よりも下の存在だと知らしめるために」
「下って‥‥兄弟でしょう」
「王家のな」
 オゼルクは訂正し、イーツェンの表情を見て微笑する。
「お前も第三王子だろう。そんなに純情でやっていけるのか、リグの王宮では?」
「‥‥‥」
「私たちはずっとそうやってきた。互いを牽制し、兄は私のものを奪えるだけ奪う。少なくともそうしていると思っている。そして私は、彼が目に留めたものを差し出してやる。何でもな」
「私は、あなたのものではない」
 少しきっとしてイーツェンが言い返すと、オゼルクが喉の奥で笑い、身を起こして油燭の炎を消した。闇がたちこめる。その奥にオゼルクの息遣いと、匂いがした。
「お前は時々、本当に可愛いな。あれに抱かれてどうだった? 充分愉しんでいたようだったがな」
「オゼルク‥‥」
「お前は自分がどれほど淫らな顔をして男に抱かれているか、知っているか? どんな声をあげているか──」
「ん──あ、やっ、オゼルク‥‥」
「黙って眠ればいいものを」
 耳元に熱い息が吹き込まれ、のしかかってきた相手に体を組みしかれてイーツェンは身をよじった。
「お前は、余計なことをしゃべりすぎる」
「あ、んぁ‥‥」
 オゼルクの手が肌をまさぐり、イーツェンの乳首をやわらかくつまみ上げた。イーツェンの喉から甘い呻きがこぼれるまでに時間はかからない。疲れ切った体をオゼルクはひどく優しく扱い、むきだしにした肌に舌を這わせ、下腹部を指で撫であげ、汗ばんだ首すじをやわらかく吸った。
 裸の肌が重なると、イーツェンは熱を求めてオゼルクの背に腕を回した。荒い息づかいが互いの体を揺らし、オゼルクの荒々しい欲望と汗の匂いがじかに体に流れ込んでくる。
 座った状態で後ろから抱かれ、貫かれた。鎖のつなぐ足は折り曲げてイーツェンの胸に抱え込まれている。ゆっくりとした情交の中でイーツェンは汗みどろの背をオゼルクの胸に擦り付け、首をのけぞらせて甘えるような言葉を呻く。後ろを突かれるたびに奥に残った精液がオゼルクのものにまつわりついて湿った音をたてた。
 オゼルクはイーツェンの首すじに唇を這わせ、乳首を指先でなぶる。イーツェンがこらえきれずにすすり泣くと、イーツェンの手をつかんで昂ぶった牡に寄せた。重なった手でそれを擦り上げ、しごいて、イーツェンに絶頂を迎えさせる。それからオゼルクは後ろから短い律動で彼を責め上げ、短い呻きとともに果てた。
 いつもよりずっとおだやかな行為ではあったが、疲れ切ったイーツェンにはもう限界だった。すすり泣きつづける彼をオゼルクの腕が抱き寄せ、髪をなでる。オゼルクにしがみついて、わずかなぬくもりの名残りを求めながら、イーツェンは意識が闇にすべりおちていくのを感じていた。