【Dragon's Heaven 2】

 首すじを唇で擦られて、セイウェンは体をそらせた。
 まださっきのくちづけで体が敏感になっている。肌の内側がざわついて、全身が熱くなるのをこらえようもない。
 よじる体をおさえつけて、オギが一枚ずつ服をはぎとっていく。セイウェンが呻くように言った。
「オギ‥‥」
「可愛いな、お前は。あんなに怒って」
 溜息のように囁いて、オギは唇でセイウェンの抵抗を封じた。荒い手つきで服をぬがし、髪をつつむ布を外し、下からこぼれた黒髪をなでて、手をセイウェンの肌に這わせる。セイウェンが小さな声を洩らすと、体をおこして、全身を足先までなでおろした。
「セイウェン」
 そっと名を呼び、横たわった裸身を抱き上げた。浴槽に運び、湯の中へセイウェンをおろす。たじろいだように見上げてくる顔へ、笑いかけた。
「体洗ってやろうか」
「自分で洗える」
 セイウェンは、むっとした様子で答えて、浴槽の中で起き上がった。石を浅くすくいとったような形の、広くゆったりとした浴槽だ。頭側の台から取った石鹸をせっせと泡立てはじめる姿を見下ろし、オギは喉の奥で笑いながら自分の服を脱いだ。目はセイウェンから離れない。
 セイウェンの肌は、艶のあるなめらかな褐色だ。濡れるとしっとりとした琥珀色になる。ぼんやりとしたくらがりの部屋でも、揺れる水面の光がその肌をちらちらと照らした。しなやかな躰だ。細身だが、やせてはいないし、無駄のない強靱な筋肉がついている。若い獣のような躍動感を膚の内に秘めていた。
 その体に石鹸の泡をすべらせながら、セイウェンはオギをちらっと見上げた。まだむっとしたように、
「結局、損なんかしてなかったんだな」
「俺は、損をしたと言った覚えはないぞ」
 オギは頭からシャツを脱ぎ、かるく首を揺らした。豪奢な金の髪が肩へすべりおちる。くらがりで、灰色の眸の奥が光っていた。
 セイウェンが一瞬だまった。
「‥‥だってさ。あんなにがっかりしてたら、誰だってそう思う──」
「がっかりはした。あれが本物だったらよかったのに」
 心底残念そうに言う。セイウェンは小さな溜息をついた。
「そんなに竜のことが知りたいんだね。‥‥前も偽物つかまされたの、覚えてないのか?」
「覚えてる。だから、今回は、後払いで拝借してきた」
 理屈が通っているような気はするが、やはりまちがっているような気もする。うーんとセイウェンがうなっていると、全裸になったオギがするりと浴槽の中へすべりこんできた。湯面が一気に高くなり、ふえた湯の分が浴槽の腹にあいた排水の溝から流れ出ていく。
 セイウェンに体をよせると、その手から石鹸をとりあげ、両手に泡をたてた。
「お前をつれていってやりたいよ」
 真剣な声だった。セイウェンは間近に自分をのぞきこむオギの、灰色の瞳を見上げる。オギの口元にはいつもの陽気な笑みがあったが、目は真摯だった。
「お前といっしょなら、いつか探し出せるような気がするんだ。竜を」
「‥‥道を探し出したって、そこにいるとは限らないよ」
「だが、道を探し出さなきゃ、いるかいないかもわからんだろう」
 にこっと笑い、オギはセイウェンの体へ泡に濡れた手をはわせはじめた。湯から出た首すじから胸元へ、泡をぬりつけて、丁寧に肌をなでていく。セイウェンが自分の手の泡をオギの体になすりつけながら、呻くように言った。
「‥‥でもやっぱり、タダで持ってくるのは、強盗って言うと思う‥‥」
「そうか?」
 オギの手がセイウェンの胸を這った。石鹸ですべる肌をやや強く擦り上げる。手のひらで乳首をこねるようにすると、セイウェンが息をつめ、オギの腕をつかもうとしたが、指は石鹸ですべった。オギはくすくす笑って、セイウェンの乳首を唇に含む。琥珀色の肌に赤らんだ突起が何とも扇情的だった。口に泡の苦い味が拡がったが、かまわず舌の先端で乳首を弄うと、セイウェンが声をあげた。
「あっ‥‥」
「あんまり大声出すと、のぞかれるぞ」
 オギがからかうと、頬に赤みがさす。部屋の入り口は、分厚いとは言えカーテンだけだ。声がして珍しいところではないが、羞恥が全身を駆け抜けた。反射的によじろうとした体をオギが回した腕で抱きすくめる。石鹸ですべるのにてこずりながら、オギは自分の体をセイウェンの下へすべりこませ、背後から脚に脚をからめた。苦もなく膝をひらかせて、湯の中へ手をのばす。
「ああっ」
 セイウェンが声を上げる。息をつめようとして、その声は苦しげなものになっていた。あたたかな湯につかった体の中心をオギの指が這う。彼の手の中で、セイウェンの欲望はたちまち頭をもたげ、快楽を体の芯につたえてきた。身をよじると水音が体を叩く。ちょうど、敏感になった乳首が水面すれすれのところにあり、水に撫でられる感触が体をはしった。
 オギの右手が固い茎をつつみこみ、丁寧に撫で上げながら、左手をセイウェンの前に回して、腹から胸へいたずらな手をすべらせる。セイウェンがあえぐと、首すじに後ろから舌を這わせて、軽く歯の先をたてた。
「こんなに硬くなって」
 からかうように耳元へささやき、右手で擦り上げながら、セイウェンの耳へ舌先をさしこんだ。ねぶる。
 セイウェンは、息を殺そうとしながら呻いた。湯の中で開いた脚の付け根で、欲望をうったえかける己のものが見える。オギの指が執拗にそれへからみつき、しごきあげて、先端からその下をぐるりと指の腹でなぞった。
 全身が火照るような思いがする。同時に強い感覚が下肢から脳天までつきぬけるようで、セイウェンはのばした右手に浴槽のふちをつかんだ。喉の奥から呻きがもれる。その喉元をオギが噛み、左手で乳首を強く摘んだ。
「やっ‥‥あああっ‥‥!」
「好きだろう?」
 右手の中のものにさらに強い刺激をあたえると、無言のまま口をあけ、体をそらせた。後ろから抱くオギとの間で水が揺れ、珠になってとびちる。その水音すら淫らに聞こえて、セイウェンは体をゆすった。あたたかな湯の中でオギの指がさらに執拗に彼の欲望へからみつき、裏をなぞり、根元からぞろりと撫で上げる。渦巻くような湯の流れすら過敏に感じた。
 オギが脚を動かし、セイウェンの脚をさらにひらいた。オギの熱い楔が内腿にふれて、セイウェンは呻いた。その腰をゆすりあげて下肢を引き付けると、オギは左手でセイウェンの左足首をつかみ、浴槽のはじへ膝をかけた。
 楔を弄っていた右手を、大きく開いたセイウェンの脚の奥へすすめる。手のひらで、熱く緊張した欲望を擦りながら、指で秘奥をさぐった。
 セイウェンの耳元へ囁く。
「ここも」
「ん‥‥っ」
 苦しげだが甘い呻きを聞きながら、指でそこをなぞった。セイウェンの息はもう荒く乱れて、湯と快楽に熱くなった体が愛撫に反応してふるえる。強く孔をなぞると頭をふった。
「オギ‥‥っ」
 答えるように、指を内側へゆっくりとねじりこむ。セイウェンの頭を肩でささえ、耳元を唇でなぶりながら、丁寧な指先で愛撫をくわえた。途中で一度とめ、慣らすように揺らす。軽く引いてから、ゆっくりと差し入れると、セイウェンがほそい声をあげた。
 焦らすように時間をかけて抜いていく。セイウェンの耳を噛んだ。
「熱いな。お前の中は、ほんとに──」
「オ‥‥ギ‥‥」
「何だ?」
 抜きかかった指先、第1関節をぐるりと回す。
「あっ──」
 顔を歪めて息をこらえた。オギの指はまた沈みはじめる。自分の内側を貫いてゆくその仕種、オギの愛撫を呑みこんでいく自分の体が、揺れる湯と漂う湯気の向こうに透けて、セイウェンは体の芯に痺れるような快楽をおぼえた。どんどん高まっていく。気持ちも、体も。
 オギの指がふたたび後ろへ深く沈んだ。さっきよりも荒々しく中を乱し、引いて、湯に濡れた指の数をふやす。挿入をくりかえすたび内側へあたたかいものが入りこみ、オギの指にからみついて揺れた。
 唇をセイウェンの耳から頬へと這わせ、左手で肩や胸の肌をはげしく愛撫して、オギも荒い息をつきながら無言のまま行為に没頭しているようだった。こまかくはじける水音が耳にひびく。オギの金の髪がセイウェンの頬や首すじにこすれ、細かな刺激に撫でられて、セイウェンは呻いた。肌と内側に感じるオギの愛撫に、体が一気にのぼりつめていくのを感じる。
 必死であえいだ。
「オギ‥‥」
「だから、何だ?」
 声は荒く錆びていたが、笑いを含んでもいるようだった。セイウェンは痺れたように重い左腕を持ち上げ、金色に光る膚から湯をしたたらせながら、オギの首へ腕をかける。濡れた金髪の中へ指先をさしこみ、自分の首をあおのかせ、くちづけを求めた。
 オギはゆっくりとセイウェンの唇へ口を重ねる。セイウェンの奥を指で乱しながら、口腔を舌で大きくなぶった。セイウェンはオギの目を見つめる。オギの灰色の瞳は愉悦と欲望の光をたたえ、セイウェンを見つめていた。獲物を見るような獰猛さがある。貫かれるようなまなざしに、セイウェンの体が大きな脈を打った。
 口をはなし、セイウェンはオギを見上げたまま、かすれた声で囁いた。
「欲しい‥‥」
「俺もだ」
 囁き返して、オギはセイウェンの奥へ沈めた指を大きく動かした。セイウェンがするどい悲鳴をあげる。
「ああっ‥‥だめっ、あっ!」
 指先がその部分を荒く擦り上げ、たてつづけに責めた。セイウェンが頭を振って、体をそらせようとするが、湯の中で体が泳いでうまくいかない。逃がそうとすればするだけ快楽は体の奥から渦を巻き、直に快感をえぐられるような愉悦に声がほとばしった。
「あああ‥‥っ!」
 腰が強くはねた。水音が鳴る。セイウェンの楔から白濁したものが湯にひろがっていくのを、オギは笑みを浮かべてながめた。セイウェンのなめらかな膚に舌をすべらせる。石鹸の香りにまじって汗の味がした。
 指を、ゆっくりと引き抜いていく。じれったい動きにセイウェンが呻いて、腰をよじった。完全に抜いて、オギは放出したばかりのセイウェンのそれへ指を這わせる。
 丁寧に撫であげると、また呻いた。
「ん‥‥あぁっ‥‥」
 先端のふくらみを、ふれるかふれないかというくらいにやわらかく撫でられ、セイウェンは必死に首をふった。のぼりつめた体に異様な感覚がわきあがってくる。湯の流れが、敏感になっているそこを撫で、指が繊細であえかな刺激をくわえた。あまりに淡い感触。ぞわりと肌が粟立つ。快感というよりも、溺れてしまいそうな得体のしれない惑乱が下肢に乱れた。
「やめ──!」
 声が途切れて、首をのけぞらせる。息を強くつめたが、次の刹那に獣のような声で呻いた。全身が痙攣する。水の上に出ている足の指がぴんとそりかえった。
 オギが笑って指を茎にからめ、あやすようにセイウェンの首すじへ唇をおとした。
「セイウェン」
 囁く声にびくっと体をふるわせる。荒い息で何か言おうとするが、切れ切れに呻くだけで言葉にならない。オギは手をのばしてセイウェンの左足を浴槽のふちから外し、膝の裏へ手を回してかかえあげた。脚を大きく開きながら、自分の上へセイウェンの体をおろしていく。
「あ‥‥」
 セイウェンが腰を揺らした。オギの愛撫で自分のものがふたたび硬く立ち上がっているのが見えたが、もう羞恥などなかった。内側へ入りこんでくるオギの熱を求めようとする。
 オギは、かかえた腰をゆっくりとしか下ろそうとしない。途中でとめて、軽くセイウェンの体をゆすった。
「ひぁっ‥‥あ‥‥っ、オ‥‥ギ‥‥」
「もっと?」
「もっと──」
 たずねられるままに乱れてねだる。快楽に我を失ったセイウェンを見つめて、オギは一気にセイウェンの体を引きずりおろした。奥を強く貫かれ、セイウェンが背をしならせる。口から声にならないかすれた悲鳴がほとばしった。
 体の中へ入りこんでいた湯が、オギのものにからみつきながらセイウェンの奥へと波を打った。わずかな動きがとてつもなく強烈に感じられて、セイウェンは喉をのけぞらせ、髪をふりみだす。その膝の裏をかかえ、オギが強くセイウェンの腰をゆすった。腰から脳天まで熱い衝撃がつき抜けるようだった。
「あああっ‥‥んっ、ああっ!」
「お前は可愛いな──」
 熱く湿った声で囁いて、オギはまた強くセイウェンの腰を自分へ打ちつける。水音の激しさがセイウェンの切れ切れの呻きを隠した。たてつづけに強く貫くとセイウェンがすすり泣く声を洩らし、自分をかかえるオギの腕に爪をたてた。全身をくねらせてオギの動きを求め、応じる。
 深く沈めて、オギも呻きを洩らした。腕を抜き、快楽に酔うセイウェンの右手首をつかむ。その手をセイウェンのものへ寄せた。
「ん‥‥」
 呻くセイウェンの手を動かし、そそりたつ楔を愛撫してやる。やがて、セイウェンの指が自分の欲望へからみつき、自ら淫らにしごきだした。
 セイウェンの耳を噛んで、オギが囁いた。
「いい子だ、セイウェン。もっとしてみろ」
「‥‥オ‥‥ギ──」
「気持ちよくしてやるから」
 セイウェンの手が早さをまし、あられもなく自分を追いつめていく。水音をたてて全身をゆすり、背後のオギへ頭を押し付けるようにして揺らした。かすれた声を洩らしながら、オギを呼ぶ。それしか考えられないようだった。
「オギっ‥‥」
 オギはセイウェンの首すじをなぞりながら悲鳴のような声を聞いていたが、熱い息をつくと、セイウェンの腰を後ろからかかえてぐいと体をおこした。
 低い浴槽のふちへセイウェンの上体を押しつけ、膝立ちになったセイウェンの、つきださせた腰を両手でつかんだ。背後から力強く貫く。
「ああっ!」
 セイウェンは左腕で浴槽のふちにしがみつき、夢中で腰を振った。右手はまだ自分のものへからみついて、ひたすらに愉悦を追い求めている。オギは深く貫いてから腰を引き、ゆっくりと沈めた。段々と早さを増していく。
 セイウェンが呻きながらオギを呼んだ。幾度も貫かれ、体は今にも内側から溶けていきそうに熱い。自分で刺激を与えていることにももう気付いていなかった。
 石の浴槽のつめたい感触も、押し付けられた体の痛みも、すべてがただ快楽を高め、水音がなにか遠いものに聞こえる。自分の声と、オギの荒い息。切れ切れの呻き。体がつながっていく淫らな音。
「オギ──オギっ‥‥」
 オギがセイウェンの体の角度を変え、たてつづけに強い動きをおくりこむ。かすれた、切ない声で悲鳴を上げて、セイウェンの全身がぴんとはりつめた。浴槽にしがみつく指先が白く色を失う。
 強烈な快感が体を襲い、白熱するような意識の中セイウェンは、貫かれた奥にオギの熱さがはじけるのを感じていた。


 オギはセイウェンの背にのしかかって荒い息をついていたが、体を離し、ずるりと崩れるセイウェンを抱きしめた。浴槽にすわらせる。底の栓を外し、浴槽の湯を抜いた。
 オギは石鹸を取って、丁寧にセイウェンの体を洗いはじめた。
 セイウェンはぼんやりとした様子で、オギを見ている。
「やっぱり、自分じゃ洗えないだろう」
 くすっと笑いかけ、オギはセイウェンの全身へ石鹸の泡をすべらせた。セイウェンは何か言おうとしたようだが、まだ目が恍惚としていて、焦点があわない。溜息のようなものをついて、結局何も言わなかった。
 自分の体も洗って、オギは立ち上がると、新しい湯を入れる管の留め栓を外した。浴槽の上の壁から斜めに下がっている管から、湯が落ちてくる。湯気がたちのぼる中、セイウェンに体をよせて、腕を回した。
 セイウェンが目をとじる。オギへぐったりとした頭をもたせかけ、かすれた声でつぶやいた。
「オギ‥‥約束して」
「何を」
「今度、地図を買う時は、俺もつれていくって‥‥」
 オギはセイウェンを見下ろした。灰色の目にきらっと獰猛な光がはしり、オギは軽く頭をうしろにそらし、声を上げて笑いだした。セイウェンがむっとした顔をする。少し醒めたようだった。
「そんなに笑って。次、だまされても、もう絶対に味方してやらないからな」
「お前を笑ったわけじゃないよ、馬鹿」
 オギはセイウェンを強く胸に引き寄せ、抱きしめる。セイウェンが、快楽の引かない体をもてあますように呻いた。
 その耳元へ、オギが囁く。
「地図、買ってもいいのか、あんなに嫌がってたのに」
「だって‥‥」
「信じるか、竜の道の伝説?」
「わかんないよ、俺は」
 セイウェンは溜息をついて、オギの胸元へ頭をのせた。
「でも、オギが言うなら、俺も行ってみたい。それに‥‥」
「それに?」
「‥‥オギ、どうせまた強盗するだろう、俺が見てないと」
 まだ怒ったように言った。その体を抱きしめたまま、オギはくすくす笑う。
「可愛いな、お前は」
「うるさい」
「帰りに古地図屋行こうな」
「‥‥‥」
 オギの腕の中で大きな溜息をついたが、セイウェンもすぐに笑いだし、オギの体へ腕を回した。
「わかった。いっしょに行こう」
「うん」
 オギはうれしそうにうなずき、セイウェンに体をもたせかけた。その重さを受けとめながら、セイウェンはたちのぼる湯気の中、肌のあたたかさに溺れるように目をとじた。どこでもいい、と思う。オギが行きたいのなら、たとえ地図がなくとも。北でも南でも。
 言ったが最後、オギはどこにでも旅立とうとするだろうから、絶対に、言えないが。

--END--